チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2010年4月30日
ダライ・ラマ法王、被災地への二度目のメッセージ
先の27日に行なわれた、テンシュク(長寿祈願会)の最後に、法王は地震被害者たちへ二度目のメッセージを発せられた。
以下、その聞き取り試訳。
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キグドで大きな地震があり、沢山の人たちが亡くなられた。それぞれ父母、子ども、兄弟、近所の人たちを亡くし、心に耐え難い悲しみを感じている人たちが大勢いるであろう。
心に留めるべきは、チュンジュック(入菩提行論/シャンティデェーヴァ・寂天著)にあるように「もしも、元に戻すことができるなら、何で嫌がる(心配する、苦しむ、悲しむ)必要があるのか? もしも、元に戻すことができないのなら、嫌がって何の利があるのか?」ということだ。
もうすでに起こってしまったこと、それは、それぞれの業の果として現れた過去の現象だ。元に戻すことはもうできない。しかし、将来はすべて業のせいというのではない。
「業・行」とは、よくこれを理解していないものは、業とその果というと、もうどうしようもないことのように思っている人がいる。
それは、例えば創造神を信じる人たちが「過去も未来も、神の思し召しのまま」というのと同じようなものだ。何でも「それはカルマだ」という態度だ。
仏教はそうではない。業(レ、行、カルマ)とは行為だ。行為というのは行為者が何かを為すという意味だ。すでに起こってしまったことは、各自の過去に行なった、正しくない行ないを因として、その結果として苦難が起こったのだ。未来は、行であれば、行為者がやろうとしていることだ、だから、業は各自が今から決めることができるものだ。
業という時に、必ずしも前世の話を持ち出さなくてもいい、今生に限っても、各自が仕事を頑張れってやれば、、、例えば、商売をするにしても一日頑張って働けば、利益も増えるというものだ。これが因果(行為とその結果)だ。商売を一生懸命やったという、その行為の結果が現れて、利益を得ることができる。その利益で衣食を賄うなり、時間を得て行をするなり、布施をするなりもできよう。
すべて、行為により現れた現象だ。だから、将来は、例えば、地震に対しても、「もしも元に戻すことができるなら、何で嫌がる必要があろう?」というこれだ。それぞれが元に戻す努力をするのだ。
家を建て直したり、学校を建て直したりするときには、将来また地震が起こるであろうことを予期して、その対策を講じ、頑丈に建て直すなら利があろう。
ただ、将来を心配して、心が内向きになり、悲しみの中でうつむいて過ごしてばかりいては、困難な状況から立ち直ることはできない。
心暗くならず、起こってしまったことはもう仕方がない、「もしも、元に戻すことができないなら」とはこのことだ、「もしも、元に戻すことができないなら、嫌がって何の利があるか?」、ここでミ・ガ(嫌う)とは苦しむということだが、苦しんでも何の役にも立たない。努力して、勇気を失わず、前向きに立ち向かうなら「元に戻すことができるなら、何で嫌がるのか?」だ。
みんな、亡くなった人たちのためにモンラム(祈願)を行なうこと。
苦しみの中にある人たちは挫けないでほしいと思う。みんなの幸福を願っている。慰めの言葉を掛けたい。挫けないでほしい。
チベット各地から寄付が被災地に送られていると聞く、また、地震の後すぐに近隣の僧院から僧侶たちが駆け付けて、一生懸命被災者たちを救った。私は本当にこのことを喜ぶ。
我々は仏教の教えを受け入れる者たちだ、因果律を受け入れる者たちだ。善と悪の分別を知る者たちだ。だから、1円(1ルピー、1元)のお金を寄付しようとも、これを正しい心とともに行なうならば、例えば寄付を行なう時に「文殊菩薩と同等の知性と普賢菩薩と同等な行為がいつかできるようになるために、この善業を回向する」というような回向と祈願とともに行なうならば、実際にそのお金が相手側に渡り利益があるというだけでなく、その善行により菩提心が増すこととなり、何生にも亘る利があろう。
そうでなくても、純粋な動機で何の世俗的見返りも求めず、相手の幸福を願う良き心で寄付し、回向するならば、その結果はよいものだ。このことを一言、言いたかった。
寄付は、同時に中国各地の一般の人々からも沢山寄せられているようだ。
昨日も新聞記者にこのことは話したが、この機会を借りて再度「ありがとう」と言いたい。
これだけだ、タシデレ!
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)