チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2014年5月3日

相次ぎドゥンドゥプ・ワンチェンに国際的人権賞、僧ゴロ・ジグメは報道ヒーローと

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62bc7d84「ジクデル(日本語版タイトル『恐怖を乗り越えて』」の制作者ドゥンドゥプ・ワンチェンが法王の盟友であったヴァーツラフ・ハヴェル氏の名をかした世界的人権賞を受賞した。前日には彼の助手をしていた僧ゴロ・ジグメも「世界の報道ヒーロー100人」に選出されたという発表があったばかりだ。

この賞「ハヴァル創造的反体制賞(Havel Prize for Creative Dissent.) 」の授与団体はニューヨークベースの「人権財団(The Human Rights Foundation (HRF) )」である。ヴァーツラフ・ハヴェル氏自身、2009年から2011年に亡くなるまでこの財団の会長を勤めていた。これまでに、中国のアイ・ウェイ・ウェイ、ビルマのアウンサンスーチーはじめ多くの有名反体制活動家がこの賞を受賞している。

「独創的なアイデアで勇敢に独裁政権に異を唱えた活動家」に与えられるこの国際人権賞の今年の受賞者は、彼の他に1人と1グループであった。1人はトルコの“Standing Man”として有名となったパーフォーミングアーティストのErdem Gunduz。彼は2013年トルコで起こった反体制デモの際、大統領がデモ禁止令を出した後、タクシン広場にただ立ち続けるという行為により多くの共感者を呼び、トルコの反体制運動のシンボルとなった。

もう1グループはロシアのプッシー・ライオット。このロシアの女性パンク・ロックグループは益々全体主義的傾向を強めるプーチン政権に対し、「反体制芸術」により立ち向かう象徴となったと言われる。授賞式にはグループを代表し21ヶ月間刑務所に入れられていたMaria Alyokhinaが出席するという。

チベットのドゥンドゥプ・ワンチェンは、2008年の北京オリンピックを前に様々なチベット人に「北京オリンピックについてどう思うか?」という質問を投げかけ、その答えを収録した。それをまとめた『ジクデル』と呼ばれるドキュメンタリーフィルムはちょうどその後チベット全土で抵抗運動が広がったこともあり、直接チベット人の意見を集めた貴重な映像として世界中で上映されることとなった。

彼は撮影したデータを国外に送ったそのすぐ後、逮捕され6年の刑を受けた。本来なら今年3月に刑期は終了し解放される予定であったが、理由が明かされないまま6月まで刑期が延ばされた。今回、彼が再び国際的な人権賞を受賞したことを中国政府がどう判断するかは分からないが、とにかく授与団体としては中国の人権状況改善のために圧力をかけたいという意図の下に彼を選んだに違いない。もちろん彼は授賞式には出席できない。

この賞は「勇気と創意を持って、真実に基づき独裁主義の嘘を暴いた人々」に捧げられるとされる。

なお、受賞者には35万ノルウェークローネ(約700万円)が贈られる。

f13cd98f僧ゴロ・ジグメが「世界報道自由デー」に「世界の報道ヒーロー100人」の1人として選ばれる

僧ゴロ・ジグメ・ギャンツォ)はドゥンドゥプ・ワンチェンの撮影の助手を務めていた僧侶である。彼も最初2008年に拘束され、その後も何度も拘束され、拷問を受けている。2012年9月、当局により拉致されたらしいという情報を最後に、その後消息が途絶えたままである。

「世界報道自由デー(the World Press Freedom Day)」とは「報道の自由の重要性を喚起し、各国政府が世界人権宣言の第19条に基づく表現の自由を尊重し支持する義務を認識するために、国連総会で定められた日。毎年5月3日。」とウキペに書かれている。

今回の「世界の報道ヒーロー100人」はこの日に合わせて「国境なき記者団(Reporters Without Border)」が選出したものである。老若男女を問わず65カ国から「共通の善なるもののために模範的活動を行った人々」を選んだという。

「これらの報道ヒーローたちは自由を求めるすべての男女のインスピレーションの源である。彼らや彼らと同様な人々の決意なしには、自由の領域を拡大することは全く不可能であるからだ」と国境なき記者団代表のChristophe Deloireは語る。

また「世界報道自由デーは、常に自分の安全を犠牲にし、時には命も投げ出しているジャーナリストやブロガーたちの勇気を讃える機会とすべきだ」と続ける。

この日を記念してダラムサラではTCHRD(チベット人権民主センター)主催のコンサートが開かれる。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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