チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2014年1月5日
チベットに宗教の自由はあるのか? 続く僧院いじめ
中国政府は常々「チベット族は宗教の自由を謳歌している」と宣伝している。一方で「宗教の自由」を訴えデモを行ったり、焼身するチベット人が絶えない。外部の人にとって実態は分かり難い。中国政府が情報封鎖するからだ。なぜそんなに必死に隠そうとするのか?それがまず問われるべきだ。
最近、チベットの僧院で起った出来事を幾つか紹介する。
ディル、ドンナ僧院閉鎖
ディル、ドンナ僧院は昨年11月半ば、同じディル県のタルム僧院とラプテン僧院と共に、部隊に包囲されている。その前後に3つの僧院から僧侶が10人以上連行されている。ドンナ僧院からは論理学教師であるケルサン・ドゥンドゥップはじめ数名の僧侶が連行された。僧院に押し入った部隊は僧侶の個人的持ち物や僧院の金等を盗んだと報告される。
さらに、当局は本堂や僧房の入り口の門に「封鎖」と書かれた張り紙を張り、僧院への出入りを完全に遮断し、僧院を閉鎖した。
この原因について地元の人々は「この僧院はディルで一番僧侶数の多い僧院だ。チベット語とチベット文化の擁護、発展のために様々な活動を行っていた。それが、当局に目をつけられる原因になったのだろう」という。
ディル県一帯の僧院は去年4月に当局から「僧院の運営権をすべて政府に移管せよ」という命令を受けた。これと同時に僧侶に対する「再教育」が強化された。このような動きに反発に多くの僧院から僧侶が逃げ出し、機能しなくなる僧院が相次いだ。自分たちの僧院が空っぽになったことを嘆いた住民たちの中には、亡くなった親族の遺体を政府庁舎前に運び込み、「お前たちのせいで、葬式を上げてくれる僧侶がいなくなった。だから、政府が葬式を上げてくれ」という抗議方法を取るものもいたという。
参照:1月2日付けRFAチベット語版
1月3日付けTibet Times チベット語版
ラプラン・タシキル僧院で僧侶制限
1月3日付けRFA等が伝えるところによれば、アムド、ラプラン・タシキル僧院の寺院管理委員会は2013年12月13日付けの布告で「正規の僧侶以外を追放せよ」との命令をだした。今年3月初めまでに完全に実行せよと責任者たちに圧力をかけている。
ここでいう「正規の僧侶以外」とは、「当僧院に勉学のために長期滞在することが許されている者以外」とされるが、これは主には地区外からこの僧院に学びに来ている他地区の僧侶と年少の僧侶と言われている。ラプラン・タシキル僧院はアムド有数の巨大僧院であり、勉学の中心的僧院である。他の地区、地方からここに学びに来ている僧侶は相当な数に登ると思われる。また、年少の僧侶も多いであろう。
2008年以降、チベット全域で僧院に対する管理が強化され、他地区の僧侶や年少の僧侶を受け入れてはいけないという規則が広まった。しかし、実際にはその運用は地区ごと、僧院ごとに異なり、何かの政治的事件等がない限り、厳しく施行されない場合が多いと言われる。
他に、ラプラン・タシキル僧院があるサンチュ県では、最近冬休みに入った中高の生徒たちが補習のために塾に通うことが禁止されたという。基本的に、どんな理由にせよチベット人が集まるということを禁止しようということらしい。
この塾とは地域の僧侶や一般の有志が親たちに頼まれ、休み中に子供たちにチベット語等を教えているのだという。このような塾に通うことが禁止されたという話しは他の地区でもあるが、今回このような処置が取られたのは、同じ甘粛省サンチュ県のアムチョク鎮で昨年12月19日に僧ツルティム・ギャンツォ(43)が焼身抗議を行ったからであろうと思われている。ラプラン・タシキル僧院への嫌がらせもこの一環であろうと地元の人たちは言う。
ペマ県で再教育強化
1月4日付けRFAによれば、最近、ゴロ州ペマ県一帯の僧院や村に政府の役人たちが現れ、「何か問題がある時には当局に書面で訴えるべきであり、決してデモ等を行ってはならない」と演説し、25項目に渡る規則を発表したという。
その規則の中には僧侶が関係役所に出頭するべきことも書かれていたというが、今のところ誰もその命令に従う者はいないという。
ペマ県には現在2000人の「愛国教育隊」が新しく派遣され、僧院や村を巡りながら日夜チベット人を虐め抜いていると現地から報告される。
今のところ拘束者等の情報は入っていないが、これが昂じるとペマ県が第2のディル県になるのではないかと懸念される。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)