チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年9月24日
亡命チベット人たちが2人のチベット人への死刑撤回を国連に訴える
先週土曜日(9月21日)ダラムサラにあるTIPA(ドラマスクール)ホールで、チベット国民民主党(National Democratic Party of Tibet)主催により、焼身関連で今年死刑を言い渡された2人のチベット人の死刑撤回を国連に訴えるための集会と書名活動が行われた。
今年1月31日、ンガバ州中級人民法院により焼身抗議を煽動、教唆したとして故意殺人の罪状でキルティ僧院僧侶ロプサン・クンチョク、40歳に2年執行猶予付き死刑、政治的権利剥奪終身が言い渡されている。(詳しくはこちらへ)
また、8月15日、同じくンガバ州中級人民法院により焼身抗議者クンチョク・ワンモの夫ドルマ・キャプ、33歳に妻殺し故意殺人罪により死刑、政治的権利剥奪終身が言い渡されている。(詳しくはこちらへ)
この日主賓として招待された、多くの焼身者を出したキルティ僧院を統括するキルティ・リンポチェはそのスピーチの中で「中国政府は焼身抗議に関わったとして、何も具体的な証拠を示すことなく、ロプサン・クンチョクとドルマ・キャプに対し死刑を言い渡した。このことは、中国が国際法と基本的人権を無視していることを明らかに示している」と述べ、さらに国連と国際社会に対し、チベットで囚われている若いパンチェン・ラマ(ゲンドゥン・チュキ・ニマ)を初めすべての政治犯が解放されるよう中国政府に圧力をかけることを要請した。
「これは国際法と基本的人権をあからさまに無視しているだけでなく、国家による市民権の組織的侵犯でもある」とチベット国民民主党の党首ゲレック・ジャミヤンは述べ、「中国共産党の独裁的横暴は人間性に対する犯罪であり、世界平和を乱す大きな汚点である」と続けた。
このキャンペーンは2人のチベット人に対する死刑撤廃を求めながら、国連に対しチベットの危機的状況解決を要請するものであった。
昨日、RFAに所属するゾゲ出身の友人に会い、ドルマ・キャプのケースについて話しをした。その中で、新たに彼の下に現地から伝えられたという情報を聞いた。
それによれば、ドルマ・キャプの妻クンチョク・ワンモが焼身した場所は以前明確にされていなかったが、彼女はゾゲ県タクツァ郷にある軍駐屯地の正面ゲートの前で焼身したという。数人のチベット人がそれを目撃していたという。彼女はその場で死亡したが、遺体はすぐに軍により駐屯地の中に運ばれた。
その後、軍は遺体をわざわざドルマ・キャプのいる自宅の前に運び、そこで写真を撮っていたと目撃者は語る。これは、おそらく当局の指示により、夫であるドルマ・キャプが妻であるクンチョク・ワンモを殺したという証拠写真(?)にするためにそのようなことをやったのであろうと思われている。
なぜ、当局はこのようなことを行ったかについて、友人が話すには、「この焼身の前にゾゲのタクツァン・ラマ僧院の僧侶2人が焼身しているが、この後ゾゲ県のトップは成都に呼ばれ、州政府から『今度またゾゲ県内で焼身が起った場合には、お前をクビにする』と言われたという。だから、このクンチョク・ワンモの焼身を抗議の焼身とすれば、このトップがクビになるというので、このケースは最初から事実を隠されなければならなかったのだ」という。
さらに友人は「しかし、ドルマ・キャプの死刑については、四川政府からこのまま彼を死刑執行することに対し反対する意見もでているという。チベット人はみんなこれがでっち上げの冤罪であることを知っており、彼を実際に死刑にすることは危険を伴うというわけだ」という。
妻の政治的焼身抗議に対し、「その夫が妻を殺し焼身に見せかけた」ということにされて死刑を執行されるかもしれないというこのケースは、あまりにひどすぎるケースなのである。
なお、友人が話すには焼身したクンチョク・ワンモとドルマ・キャプは一緒に飲食店を経営していたが、クンチョク・ワンモは美人でいつも小ぎれいにしており、人気者であったという。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)