チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年2月1日
焼身教唆で死刑と10年
ンガバ中級人民法院は1月31日、焼身抗議を煽動、教唆したとして2人のチベット人に故意殺人罪の判決を言い渡した。
・キルティ僧院僧侶ロプサン・クンチョク(བློ་བཟང་དཀོན་མཆོག་)、40歳に2年執行猶予付き死刑、政治的権利剥奪終身。
・彼の甥であるロプサン・ツェリン(བློ་བཟང་ཚེ་རིང་)、31歳に懲役10年、政治的権利剥奪3年。
2人は共謀して計8人に焼身を教唆し、その内3人が実際に焼身し死亡したとされた。
この裁判は珍しく公開で行われ、家族、友人も参加したという。数日前に最初の公判が行われ、2度目の昨日には早くも判決が言い渡されている。判決が言い渡されたときの映像は以下で見ることができる>http://thehousenews.com/politics/四川阿壩僧人-教唆自焚被判死緩/
「彼らは、自分たちで弁護士を雇わなかったので、当局が弁護士を付けた」と当局は言う。当局が付けた弁護士が被告を弁護する気など全く無いことは明らかである。
2人は去年8月半ばに拘束され、その後行方不明となっていたが、12月9日になり新華社が突然「ダライ一味の指示を受け、住民に焼身自殺を扇動・強要したとして四川省ンガバチベット族・チャン族自治州のチベット仏教僧侶(40)と男性遊牧民(31)を逮捕した」と報じた。http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51772654.html
その後、間もなくして、CCTV(中国中央TV)は「ンガバ地区焼身の事実」という30分ほどのプロパガンダビデオを流した。その中でこの2人が自供しているというシーンが何度も流された。ロプサン・クンチョクは「焼身者は勇者である」という話を焼身候補者に話し、「情報を亡命側に伝える」ことも約束したと言っている。そして、焼身者から焼身の計画を聞くと「やればいい」と言ったそうだ。その他、法王やキルティ・リンポチェ、ロプサン・センゲ首相が焼身者を勇者として讃え、焼身を賞賛したということになっているが、そこで引用される言葉は、確かに彼らが発言した言葉もあるが、まったく言ってない言葉も混じっている。ま、それにしても、筋はあらかじめ決められたシナリオ通りに完全にナレーションにより作られている。
そのビデオが以下:
折から、インドのデリーでは亡命政府主催で5000人以上が集結し、1月30日から4日間に渡る大規模な「チベット連帯集会」が行われているが、そこに出席しているキルティ・リンポチェはこのニュースを聞き、「全ては拷問による自白に基づくものだ」とコメントされている。
「焼身は外部の者が煽動しているのだという作り話しを成り立たせるために、中国当局は多くのチベット人を拘束し、激しい拷問の下で偽の罪を告白することを強いている。これが彼らが証拠と呼ぶものを集めるやり方なのだ」とリンポチェは話す。
もっとも、今回新華社が発表したこの件に関する記事の中には、以前書かれていた「2人はダライ一味の指令の下に行動し」ということは含まれていない。新華社>http://news.xinhuanet.com/english/china/2013-01/31/c_132141355.htm
しかし、この判決を受け中国外務省の報道官洪磊は「この判決により、国際社会は焼身に関するダライ一味の邪悪で悪意に満ちた意図を見ることができ、彼らの犯罪を糾弾することができるであろう」と発言している。
哀れな僧ロプサン・クンチョクは今回死刑を言い渡されたが、おそらく、最初からの約束で、「裁判中に反論しなければ無期懲役に減求してやる」と言われていた可能性が高い。最終的には無期懲役になることを祈る。
この件に関し、HRW(ヒューマン・ライツ・ウォッチ)の中国班代表であるソフィ・リチャードソンは「この2人がこの地区の焼身抗議について話し合ったということはあるかも知れないが、事件との関係性を証明する十分な証拠があるとは思われない」「非常に貧弱な法的手続きと、政治的判決の歴史が中国にはあり、今回のように完全に自白のみに依り判決を下すことには、常に問題が伴うと思う」と述べ、続けて「中国政府は焼身を違法とし、これを起訴することにばかり金と人材を使い、彼らを焼身に駆り立てている原因について理解し、これを改善しようという方向にはまったく金も人材も使おうとしていない」とコメントした。
参照:31日付けCNNhttp://edition.cnn.com/2013/01/31/world/asia/china-tibetans-sentenced/index.html
31日付けHuffingtonPost http://www.huffingtonpost.com/2013/01/31/tibet-self-immolation-convictions-china_n_2590147.html?utm_hp_ref=tw
31日付けphayul http://www.phayul.com/news/article.aspx?id=32959&article=Death+with+two-year+reprieve+for+Tibetan+accused+of+inciting+self-immolations
31日付けRFAチベット語版http://www.rfa.org/tibetan/sargyur/selfimmolation-01312013130218.html?utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter
31日付けTibet Timesチベット語版http://www.tibettimes.net/news.php?showfooter=1&id=7263
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)