チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年7月29日
焼身抗議者の遺書 2通
7月16日の当ブログにおいて、それまでの焼身者48人(現在49人)をリストにまとめてお伝えした。この時、その遺書編でザムタンで焼身した3人の遺書を翻訳紹介していなかったことが気になっていた。今日は残されていた、この3人の遺書を紹介する。3人と言っても、遺書は2通だ。この内2人は一緒に1つの遺書を残したからだ。
最初の遺書はリスト25番目のナンドル、18歳が書いたもの。彼は2012年2月19日にンガバ州ザムタン県チョナン僧院の近くで焼身・死亡している。次は2012年4月19日に焼身・死亡したリスト39番のチュパック・キャプ、25歳とリスト40番のソナム、24歳が一緒に書いたもの。2人は同じくンガバ州ザムタン県チョナン僧院の近くで焼身・死亡している。
なお、この3人の焼身の映像は記録され、その遺書と共にyoutubeに発表されている。既に紹介しているが、再びそのURLを知らせる。<閲覧注意>http://www.youtube.com/watch?v=MdjEDm6zH6g&feature=youtu.be
不屈の愛国心と勇気と共に、額を高く上げ
私、ナンドルは、恩深き両親、兄弟、親戚を思う
恩あるチベットの人々の大義のために、炎に我が命を投げ入れることで
願わくば、チベットの男たち女たちよ、団結と調和を守らんことをチベット人ならば、チベットの服を着よ
そして、チベット語を話せ
チベット人であることを決して忘れるな
チベット人であるならば、愛と慈悲を持て
両親を敬い、チベット人同士で団結し、調和を保て
動物に対し慈悲深くあれ
有情の命を奪うことを慎めダライ・ラマ法王が何万年も生きられますように
チベットのラマやトゥルクが何万年も生きられますように
チベットの人々が中国の邪悪な支配から解放されますように
中国の邪悪な支配の下には大きな苦しみがあるのみこの苦しみは大きく堪え難い
邪悪な中国がチベットを侵略した
この邪悪な支配の下で暮らすことは不可能だ
邪悪な中国は愛と慈悲を持たない
堪え難き暴力と苦しみを与えるのみ
そして、最後にはチベットを抹殺しようとしているダライ・ラマ法王が何万年も生きられますように
チベット人は独自の宗教と文化を持ち、他の民族と区別される。その特徴は、愛と慈悲を持ち、他の人々の幸せのために尽くせという教えにある。しかし、今、チベットの人々は中国の侵略を受け、弾圧されている。基本的人権を奪われ、苦しみの中にある。
そして、チベットが自由を取り戻すため、世界平和のために、私たちは焼身する。自由を奪われたチベット人たちの苦しみは、私たちの焼身の苦しみよりも余程大きい。
恩ある両親よ、家族、兄弟たちよ、私たちはあなた方に愛を感じてないとか、別れたいというのではない。また、自分たちの命を軽んじているのでもない。私たちは2人とも正気で、真っ当な心と思考の下に、チベットが自由を取り戻すために、仏教が栄えること、有情の幸福と、世界平和を願い焼身するのだ。
故にどうか、私たちの最後の願いに従ってほしい。私たちが中国の手に落ちても、何もしないこと。自分たちのために1人のチベット人も傷つかないというのが願いだ。
私たちのことで悲しくなった時には、学のある僧院長やトゥルクたちの助言に従うように。そうすることで、自分たちの正しい文化と伝統を学び、保存することができるであろう。同胞への忠誠心と愛情を守り、自分たちの文化を守り、団結を維持せよ。そうすれば、いつの日にか私たちの望みは叶えられよう。どうか、私たちの最後の心からの願いが叶えられますように。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)