チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2011年12月20日
ロシア人リクエストによるダライ・ラマ仏教講義
今日(19日)から3日間、ダラムサラのツクラカンではロシアグループのリクエストによる法王のティーチングが行われる。
今回はロシア人1600人が大挙して小さな町に押し掛け、町がロシア人だらけになってる。ロシア人と言っても、中心はモンゴル系のブリアート共和国、カルミック共和国、トゥバ共和国の人々。一様にずんぐり体系で丸顔、色白。これに加え最近ブッダガヤのカーラチャクラ目当てもあってチベット本土から来た人が1500人あまり参加。ツクラカンとその前庭を合わせ、ほぼ収容能力一杯の総勢約7000人がぎゅう詰め状態で座っていた。
朝9時半、法王がパレスからツクラカンにお出まし。最初ブリヤート語で般若心経が唱えられた。
法王、初めにチベット本土から来た人々に対し以下ような話をされた。
「今日は、チベットからのサンジョル(最近来た人たち)が1000人以上も参加されている。あなた方が今日の教えの主な対象者だ。なぜかというと、皆さんは自分の土地に住んでいるのに自由がない。自由がないだけではなく、チベットの仏教と文化を信仰し喜ぶことは、少々まずいような雰囲気があるようだ。中国側のものでなくチベット側のものを好むとまずいようなところがある。そうじゃないかな?」
「それだけではなく、1959年以前にはチベットの3地域に沢山の知識と善行双方を備えた宗教者が沢山いたが、ほとんど亡くなってしまった。少しは残っていたがこの人たちも亡命したりして、今ちゃんと経典を解説できる人は本当に少なくなってしまっている。解説しようとしてもその機会を当局に禁止されたりする。地域によってはまだ大丈夫なところもあるようだが、ほとんどの地域で仏教を説くことが困難な状況下にある。
こうしてインドに来て、あなた方は今、仏教とはいかなるものかを理解する機会を得たのだ。だから、心して耳傾けしっかり聞いてほしい」と。
また、ロシアから来た人々とその他の外人に対しては「仏教の教えは単に信仰したり、祈ったりするばかりのものではない。自分自身の心を良き方向に変えて、善き人となり、自分もより幸福に、周りの人々、住んでいる地域の人々も愛と慈悲に満ちた幸せな社会にすること、これが主な目的だ。さらに、自分の心をさらに高め、最終的には、今不知の下にある心を全知の心に変えて行くこと、これが仏教の目的だ。だから、みなさん祈るばかりでなく、今回の教えを聞いた後に自分の考えが少しは良くなるように努力してほしい」と。
午前中はいつものように仏教とその他の宗教の哲学的見解の差を中心に仏教を概観される。午後からは今回のテキストである、ジェ・ツォンカパの「自伝」、ゲシェ・ランリタンパの「心を訓練する八つの教え」、その後予定には入ってなかったと思われるが、ジェ・ツァンカパ「道の三要素」の空の話の前までを素早く講義された。今回は同時通訳だったので効率よく、テンポよく進んだ。
この中、ジェ・ツォンカパの「自伝」は「演説解悟経」とも呼ばれ、石濱・福田両先生が訳された「聖ツォンカパ伝」の冒頭に日本語訳がある。この本では石濱先生は題を「私の目指したことは素晴らしい」と訳されている。この短いテキストはジェ・ツォンカパが自ら著した唯一の自伝である。内容はジェ・ツォンカパが自らの智慧と修行を完成していった階梯を3段階に分け、それぞれの段階で「血のにじむような努力と共に勉強した経典」を順に上げて行くというもの。
その3段階とは:
1、まず初めに、沢山の師についていろいろな内容の教えを広く学んだこと。
2、次に、そのそのようにして学んだ経典の言葉が、自分への個人的「教え」として理解されたこと。
3、最後に、その理解した内容を昼となく夜となく実修し、すべてを仏法が盛んになるために回向したこと。
意欲と頭のある者は私の後に続けという本である。顕教、密教共にその基本はディグナーガとダルマキルティーの論理学であるとし、特に4部のタントラ「所作、行、ヨガ、無上ヨガ」で参考にすべき経典が多く上げられている。
明日は「道の三要素」の残り空の説明を終えた後、チャクラサンバラ(勝楽、デムチョ)灌頂の前行。それに明日はジェ・ツォンカパの命日であるガンデン・ンガムチュ(灯明祭)の日に当たるので、特別のツォ(供養会)が行われることになっている。
ゲルク派の祖師ジェ・ツォンカパは1419年のチベット暦10月25日に、ラサ近郊ガンデン僧院で遷化された。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)