チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2011年8月15日
偽パンチェンが大勢の保安要員を伴いラプラン僧院にやって来た
8月11日、中国が選んだパンチェン・ラマが膨大な数の保安部隊を伴い、アムド、サンチュ(甘粛省甘南チベット族自治州夏河)に到着した。サンチュにはゲルク派の大僧院ラプラン・ゴンパがある。11日付ニューヨークタイムズhttp://p.tl/cc-Xによれば、「不信感を持つ群衆」はカタを持ち彼を笑顔で出迎えることを強要された。当局は彼の到着前に外国人旅行者をすべて町から追い出した。
彼はラプラン・ゴンパに数週間滞在し、仏教の勉強と瞑想等を行うという。しかし、僧院に所属する1000人以上の僧侶のほとんどはダライ・ラマ法王が認定したゲンドゥン・チュキ・ニマを本物のパンチェン・ラマであると信じており、彼に対しどのような態度を取るか分らず、状況によっては彼の滞在が短縮されることもあり得ると思われている。法王が選んだパンチェン・ラマは5歳の時、家族とともに中国当局に拉致され、今も行方不明のままである。
中国当局はチベット人に対し、政府が選んだパンチェン・ラマへの支持を広げようと躍起になっている。ギェルツェン・ノルブ(偽パンチェン)の教師にならされることを避けるためにアメリカに亡命した、クンブン僧院の元僧院長アキャ・リンポチェはニューヨークタイムズの取材に対し、「強要することでチベット人の信心を勝ち取ることはできない。また、北京に置いてばかりでは良い評判を得ることはできない」と語った。
偽パンチェンは当初7月初めにサンチュを訪問することになっていたが、役人を含めた地元の人々の否定的反応に遭い、スケジュールが延期されていた。
当地に暮らす中国人や中国人観光客は彼の到着を熱烈に歓迎した。一方僧侶たちは渋々受け入れ、不安な様子を隠さなかった。
一人の僧侶はレポーターに対し、「我々チベット人は彼と関わりたくない。彼は本物のパンチェン・ラマではない。なぜ北京は我々の伝統に干渉する権利があると思うのか?」と答えた。
「もし、これが本物のパンチェン・ラマなら町中の人々が列を組んで何時間も前から待ち続けていたことだろう。今回、彼を歓迎するのは中国人旅行者だけだ」と匿名希望のある研究者は語った。
—————————————————————————————
参照:12日付けTibet Post 英語版http://p.tl/QV8V
12日付けRFAチベット語版http://p.tl/_SfD
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)