チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2011年4月21日
ンガバから送られて来た衝撃映像/監獄と化した僧院・拘置所における拷問の証言
昨日、VOAチベット語放送の中で衝撃的映像が発表された。
事件から一ヶ月後、ンガバで危険を冒しながら撮影された貴重な映像が寄せられたのだ。
昨日の写真はこの映像からと思われる。
以下のyoutubeはンガバに関する昨日の放送のすべて。45分の長さ。
最初に3月16日に焼身自殺を計った僧プンツォの痛々しい映像が映し出される。
キャスターの説明に「衝撃的映像が含まれるのでお気を付け下さい」との断りが述べられている。
映像に写っている僧プンツォは焼身自殺を計った後、警官隊に火を消されると共に暴行を受けたという。場所は町の中心街で多くの人が目撃していた。この警官の暴行を目撃したチベット人たちは警官の手から彼を救い出し、車に載せたという。映像はその時のものと思われる。
全身火傷を負い、放心状態だが、彼はまだ座る事ができている。まともな治療を受ける事ができていれば命は助ける事ができたのではないかと推測される。
町の証言者はこの時の状況とその後に起こったデモの様子を説明している。デモは最初1人の僧侶が声を上げることから始まり、すぐに大勢のチベット人が加わった。武装警官隊に囲まれ多くが殴り倒され、逮捕された者もいたと。暴行により1人が死亡したという噂があるが、事実は確認できていないとも言っている。
映像の中では、この事件の後増強された軍隊や武装警官隊の様子が写しだされている。公安局の中に連れ込まれる人の姿も写っている。道に設けられたチュック・ポストの様子もある。
その後、ダラムサラ・キルティ僧院の僧カヤック・ツェリンが2008年3月16日に起こったデモの話、キルティ僧院の現状等について説明している。
3月19日に行われた僧プンツォの葬儀の様子が写される。3000人以上の人々が参加し、チベットの自由のために自らの身体を灯明として捧げた彼の死を、人々は心から悼んだという。
さらに僧ツェリンが僧プンツォの家族や人となりについて話し、2009年に同じく焼身自殺を計った僧タベーの近況についても説明している。
後、キルティ・リンポチェのコメントが続く。リンポチェは中国政府が「ンガバと僧院の状況は普段と何も変わりない、問題は何もない」と主張することに対し、「そうならば、現地にメディアや国際調査団を受け入れるべきだ。情報を遮断し、メディアも入れさせないのはおかしい」と述べる。その他、中国当局に対し、現実を直視し、銃口、暴力に依らず話し合いにより問題を解決するよう要請されている。
僧ツェリンも「これらの映像を見ても分るように中国当局の言っていることが全くの嘘であることは明らかだ」と主張。
その他、亡命チベット社会で首相と議員の選挙が行われた3月20日の様子を現地の人が話している。
さらに、2010年に行われた、軍事演習の映像が流される。このときチベット人は演習場に駆り出され、チベット風に作られた家が燃やされる等の様子を見る事を強要されたという。
これはチベット人たちを脅す目的で行われたとコメントされている。
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昨日のRFAチベット語版には、新たに伝わって来たキルティ僧院の現状、及び拘束され後に解放された人々の拷問証言等が報告されていた。
以下、これを抄訳する。
原文:http://p.tl/cdGs
ンガバ地区の拘置所で拷問
キルティ僧院の至る所に監視ビデオと盗聴器が取り付けられた。
4月20日に新たに伝えられたンガバの状況。
キルティ僧院内では愛国再教育が続けられている。ブンテン県、モンオン県、カゴク県、ゾルゲ県、バルカム県、ンガバ州、ンガバ県の役人800人以上が参加。午前中、僧侶たちは集会堂に集められ、集団で愛国再教育と名付けられる批判集会が開かれる。午後には、役人、軍人、武警、警官が10人づつのグループになり、僧侶たちの宿舎を廻り、僧侶一人一人を尋問する。模範回答が引き出せない時には、容赦なく罵倒され、暴力も加えられる。されに塀伝いに植えられている木の幹に縛り付けられ長時間放置される者もいるという。禁止されている法王の写真その他がないかと部屋の中は徹底的にチェックされる。その際盗聴器を仕込まれた者もいる。再教育の内容などを親内であっても一切外部に漏らしてはならないと言い渡される。
19日、再教育を行った政府の高官は僧侶たちに「お前たちが言う事を聞かない時には、お前たちを一瞬にして消し去る(殺す)権限と力を俺は持っているのだぞ」と脅したという。
当局は20日、僧院の状況が平安であることを演出するために、僧院近くのマニ車堂を開け、コルラをする人たちを呼ぼうとしたが、人が集まらなかった。そこで1人30元を握らせ、されに強要してコルラをさせ、これをカメラやビデオで撮影していたという。
19日には僧院の至る所に監視カメラと盗聴器を取り付け、僧侶たちを24時間監視し始めた。
拘束され、後に解放された者もいるが、中には2週間経っても記憶が戻らない者もいるという。拘束された者たちが激しい拷問に遭っていることは間違いないとされる。手錠、足枷をはめられ鉄の柱にくくり付けられたまま、電気棒で責められる等の拷問は生きたまま、生皮を剥がれるほどの苦しみだという。拷問により一日の内に何度も気を失うと、解放された者たちが証言していると。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)