チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2015年7月17日
<焼身続報>7月9日焼身の僧侶・死亡確認 遺書全訳
今月9日にジェクンド(ユシュ、ケグド、玉樹)のケサル広場で焼身を行った僧ソナム・トプギェル(27)が、翌日、西寧の病院で死亡していたことが明らかとなった。地域の情報網が遮断されていたが故に昨日まで情報は伝わることがなかった。彼の焼身後、家族も数日間警察に拘束されていたという。さらに、彼の焼身を映したビデオと彼の遺書も伝わった。
ダラムサラ在住のジェクンド出身者ロプサン・ツェリンが伝えるところによれば、「ソナム・トプギェルが焼身した後、彼の家族4人が当局に拘束された。家族の内、誰が拘束されていたのかは分っていないが、13日には全員開放されたという。その後、家族が彼の僧坊を片付けていた時、日々唱えていたと思われるお経の上に遺書と思われるものが見つかったのだ」という。
彼の遺書の最初には「中国政府指導者及び、特に地域の少数民族担当官へ」と書かれている。中国政府宛に書かれた焼身者の遺書はこれが始めてである。その中で彼は、「現状を訴える場所がどこにもないが故に、命をかけて世界と中国政府に訴える」と書いている。また、自分たちの望みは「ダライ・ラマ法王が再びポタラ宮殿にお戻りになることだ」と明記し、チベット人同胞にたいしては「無関心を装うことなく、団結し正義の闘いをつづけるように」と訴えている。
以下、その遺書の日本語全訳:
中国政府指導者及び、特に地域の少数民族担当官へ。
私は玉樹チベット族自治州ナンチェン出身、27歳、ナンチェン・タシ家の次男である。現在ゾンサル僧院で学んでいる。
世界の人々が知るように、中国政府は少数民族の現実に目を背け、硬直化した弾圧政策を行い、民族の宗教、慣習、文化を根こそぎにし、環境を破壊するのみである。言論の自由はなく、状況を政府に訴える場所はどこにもない。あえて民衆が苦境を訴えようとすれば、弾圧と逮捕が待っているだけである。民衆の訴えを考慮する政策は皆無である。僧院を弾圧し、僧侶、尼僧を追い出そうとする。結局、あなたたち政府は少数民族を根こそぎにする政策を押し進めているとしか思えない。
我々チベット人全員の望みはダライ・ラマ法王を再びポタラ宮殿にお招きすることである。我々には自分たちの現状や訴えを聞いてもらえる場所がどこにもないが故に、私は命を捨てて、世界と特に中国政府と中国人に対しこうして我々の現状と正義を訴える。
骨肉を同じくするチベット人同胞たちよ、あたかも何も見聞きしなかったの如くふるまってはならない。団結し、力を一つに合わせ、心を強くし、我々の目的が達成されるまで正義の闘いを続けてほしい。
ソナム・トプギェル、2015年7月1日、暁に。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)