チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2015年7月11日
<続報>9日に焼身した僧侶の身元判明 土地強制収容に抗議か?
この絵はカナダ在住の日本人画家井早智代さんが焼身した僧ソナム・トプギェルのために描かれたものである。
7月9日の夕方、ジェクンド(玉樹)の街の中心にあるケサル広場傍で焼身抗議を行った僧侶の身元が判明した。名前はソナム・トプギェル(བསོད་ནམས་སྟོབས་རྒྱལ།)、26歳。出身はカム、ナンチェン。デルゲにあるゾンサル僧院に所属する僧侶である。彼は病院に運び込まれたが、その後の消息は途絶えたままであり、生死は依然不明である。
彼の父親であるナンチェン・タシは地域の商人として有名であり、かつてはジェクンドの中心街にホテルと商店を所有し、またチベット文化、言語、宗教を守ることに熱心であり、貧しい学生たちのスポンサーをしていたという。2010年4月14日にジェクンドを襲った大地震でも、彼のホテルや商店は壊れなかったが、2012年に政府は新都市計画に伴う道路拡張を理由に彼のホテルと商店、自宅をすべて破壊したという。これに抗議したナンチェン・タシは短期間ではあるが当局に拘束され、拷問を受けたと言われる。
匿名希望のある地元のチベット人がRFAに伝えた話によれば「地元の人たちは僧ソナム・トプギェルの焼身は、彼の家族が中国支配の下でどれほど苦しめられて来たかを示すために行ったのであろう」と推測しているという。
TCHRD(チベット人権民主センター)によれば「ジャクンドでは地震後、中国当局の度重なる土地強制収容に伴い、緊張と不満が続いている。中国当局と開発業者が結託し、チベット人が何世代もの間所有してきた土地が次々に強制収容されている」という。
焼身事件が発生した後、当局は直ちに街中に武装警官を配し、すべての情報網を遮断した。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)