チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2015年3月7日
3.10 蜂起記念日を前に厳戒体制下となるチベット
3月10日は「(1959年)ラサ蜂起記念日」ということで、チベットで1年の内もっとも政治的に緊張する日となっている。2008年のラサに始まった全土的大蜂起もこの日から始まっている。2009年に始まり現在まで136人が内地で焼身抗議を行っているが、この3月10日前後は毎年起こり易い時期となっている。そこで、当局もこの日に合わせ、焼身抗議などの政治的抗議活動が起こらないようにと、様々な手を打ってくる。今年、チベット人たちは2月14日のロサ(チベット正月)から3月10日に向け、平和を願う祈りや行進を行ったり、非暴力の象徴として刀等の武器を破棄したり、自然保護の観点から毛皮を集め焼却するというイベントを行ったり、と当局が武器による恐怖で支配しようとすることに対し、非暴力と平和を願う運動を積極的に行っているように思われる。
左の写真は3月5日、アムド、クンブン僧院僧院で一連の正月恒例行事の一つである「神変大祈願祭」が行われた時のもの。これを見ると先に挑発しているのはいつものように当局ともとれる。VOAによれば、ソーシャルメディア上でこの写真を上げた現地のチベット人が「今日は軍隊を見に来たのか、祈祷祭を見に来たのか分からなかった」と書き、そのコメントには「私は怖過ぎて祈ることを忘れた」とか、中国が繰り返す「社会の安定」を揶揄し「祈祷祭にこれほど大勢の軍隊を送り込み、我々は調和に向かっているのやら、戦争に向かっているのやら?」等と嘆いていたという。この一連のモンラム祈祷祭はもともと「社会の調和とすべての有情の幸せ(世界平和)」を祈るためのものなのだ。
その他、同じくアムドのロンウォ僧院、ラプラン・タシキル僧院、ンガバ・ゴマン僧院等にはロサ辺りからさらに大勢の警官、武装警察、特殊警察、軍が配備されているという。もちろん、ンガバにはロサ早々大きな部隊増強が行われている。ゴロ地区ではガデ県、ペマ県、ダルラ県、マチェン県の国道の要所すべてに軍が駐屯し、チベット人の行動を規制、監視している。その他、甘粛省のチベット人居住地区ではチベット人の役人や教師をロサ2日目から働かせ、僧院に行くことを禁止しているという。
これらの当局の挑発に対し、今年チベット人たちは法王のお言葉に従い「非暴力を誓い、平和を祈る」ということを中心とした活動を行っているようだ。写真が伝わっているものを以下拾う。
まず、焼身が続いたンガバ州ザムタンでは2月25日から3日間、千人ほどが集まりコミュニティー内でお互い仲良くし、調和と友愛を保ち、善なる行いに務めることを誓うというイベントが行われた。
雲南省のダンスン村では2月27日に、ダライ・ラマ法王の呼びかけに従うため、毛皮を焼却するというイベントを行っている。
3月5日、ザ・サムドゥプリン僧院ではダライ・ラマ法王の平和を願い、チベット人同士の連帯を示すために刀や鉄砲を破棄するというイベントが行われた。この毛皮や武器の破棄はこれまでも多くの場所で何度も行われている。
同じく3月4日にはンガバ地区ゴマン僧院で、地球の上に白い鳩が飛ぶという「世界平和」を象徴する旗を掲げ、「世界平和を先導する法王に長寿を」祈る集会と行進が行われた。
参照:3月6日付けTibet Timesチベット語版
3月4日付けRFA英語版
3月6日付けTibet Timesチベット語版
2月19日VOA英語版
その他、フェースブックより。
これらのイベントは何れもダライ・ラマ法王を讃え、法王の意志に従い平和を祈るというものであるが故に当局からは政治的集会と見なされる危険がある。チベットで平和を祈ることは勇気がなければできないことなのである。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)