チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2014年12月13日
チベットの文化、言語、宗教を支え続けた村長が中国当局により暗殺される
危険を冒し、現地より書面と口頭で亡命側に伝えられた情報によれば、11月21日、チベット自治区ディル県ギャシュ・ヤンシュ郷ブシュン村(འབྲི་རུ་རྫོང་ཁོངས་རྒྱ་ཤོད་གཡང་ཤོད་ཤང་འོག་གི་དབུ་གཞུང་གྲོང་སྡེ།)の村長バチェン・ゲルワが当局により暗殺され、無実の村民約50人が拘束されたという。
村長バチェン・ゲルワ(50歳前後、別名ンガワン・モンラム འབའ་ཆེན་རྒྱལ་བའམ་ངག་དབང་སྨོན་ལམ།)はギャシュ・ペカル僧院の元僧侶であり、長年ブシュン村の村長を務め、チベットへの思い熱く、勇気ある指導者として村民の篤い尊敬を集めていた。
村長バチェン・ゲルワはチベットの宗教と文化発展に務め、若者たちに教育を施し、同胞間の争いを諌めていた。村に集会場を造り、ラマやゲシェを招き仏教の教えを聞く場所とし、そこはドルマやマニを唱える場所となり、伝統的歌舞や祝賀の会場となっていた。文盲を無くすためにと老若男女が学べる学校を建て、お金がなくても診てもらえる病院も建てた。
しかし、このような彼の活躍を当局はかねてより敵視していた。当局は最近、彼を辞めさせ、中国人の新しい村長を無理やり就任させようとしていた。地元のチベット人たちは「当局は邪魔な彼を消し去ったのだ」と断言する。彼が殺されたあと、すぐに村人50人が拘束され、ディル県に送られた。当局は事件を外に漏らすことを禁止し、村に通じる道路も封鎖したという。
さらに、村長の出身僧院であるギャシュ・ペカル僧院の僧侶40人とギャシュ・ヤガ・チャダ尼僧院の尼僧約100人を追放した。さらに、同じ自治区内の他尼僧院で修行するギャシュ・ヤンシュ郷出身の尼僧に対し、還俗し地元に帰るよう強要していると報告される。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)