チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2014年6月11日
アムドで30万人を集めるカーラチャクラ灌頂 当局厳重威嚇警備
9日、ツー僧院に向かう大通りの様子。何台もの軍のトラックが並んでいる。
6月9日から4日間の予定で、アムド、ツー(甘粛省甘南チベット族自治州合作市)にあるツー僧院境内でセツァン・ロプサン・ペルデン(བསེ་ཚང་བློ་བཟང་དཔལ་ལྡན།)・リンポチェによるカーラチャクラ灌頂が行われている。参加者は30万人に上ると言われる。
政府から許可を得た法要であるにも関わらず、当局は大量の部隊や私服警官を使い、さまざまな威嚇と嫌がらせを行っているという。
この法要はツー市一帯の21の村落が施主となって行われるが、甘粛省やツー市の高官や特に地区の政府で働くチベット人たちの支援により政府から許可を得る事ができたという。
導師であるセツァン・リンポチェがカーラチャクラ灌頂を行うのはこれで4回目である。去年6月四川省ンガバ州ゾゲ(ゾルゲ)で行ったときには30万人が集まったとされる。今回当局は会場が狭いという理由で参加者を20万人までに規制すると発表しているが、今回も四川省、青海省、甘粛省を中心に30万人以上が参加するものと思われている。
セツァン・ロプサン・ペルデン・チュキ・ドルジェ・リンポチェは1938年アムド、レゴンに生まれ、今年77歳。4歳の時5世パンチェン・ラマの系譜につながる転生者と認定され、デブン僧院等で学んだ。中国によるチベット侵略後、1979年まで20年ほどの間、強制労働所等に収監されていた。解放後、今に至るまで各種教育機関で指導的役割を担っている。
参加者の1人は「警官隊や軍隊、私服警官や臨時警備員が大勢日夜を問わず警戒に当たっている。それぞれの県の職員はそれぞれ自分の地区の出身者を監視することが義務づけられている。チベット人は仏教の教えを聞くときにもこのように厳しい監視や嫌がらせを受けなければならない」と嘆く。
セツァン・リンポチェは初日の前行説法の中で「雪山チベットは観音菩薩の浄土であるから、チベット人たちは生活の中で常に途絶える事なく(観音菩薩の真言である)「六字真言(オンマニペメフン)」を唱え、悪行を離れ善行に励み、チベット人同士争わず、盗み等行わず、団結すべきである」と説いたと伝えられる。
ダライ・ラマ法王は今年7月、インド、ラダックのレーでカーラチャクラ法要を行われる。今回の参加者数の予想は10万人という。2011年ブッダガヤで行われたときの参加者数は約20万人だったそうだ。とにかく、チベット人と、チベット文化圏の人は特にカーラチャクラ法要が開かれると聞くと駆けつける人が多い。カーラチャクラ灌頂を受ければ、今までの悪行はすべて浄化され、来生でシャンバラ王国と呼ばれる浄土に生まれことができると信じられている。このシャンバラ王国は未来に起こるとされる宇宙戦争において悪の軍団を打ち砕くとされる。
このような信仰は別にして、このカーラチャクラ灌頂は他の灌頂と違い、歴史的にダライ・ラマ等の選ばれた高僧のみが行い、その目的も仏法を一般大衆に広めると共に、民族的連帯を強めるという政治的意味合いも持つものであった。
なお、このツー僧院西側の丘にある仏塔前で2012年8月7日にドルカル・キ、2012年10月13日にタムディン・ドルジェと2人のチベット人が焼身抗議を行っている。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)