チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2014年4月28日
ンガバ:「国際母語デー」に行われようとしていたチベット語コンテストに中止命令
2013年にケンロ、マチュ県に張り出された「国際母語デー」を広報する張り紙。
「国際母語デー」とは、言語と文化の多様性、多言語の使用、そしてあらゆる母語の尊重の推進を目的として、ユネスコが1999年に制定した、国際デーのひとつである。毎年2月21日がその日とされる。
チベットのンガバでその時起こったことが2ヶ月ほど経ってやっと海外に伝えられた。
4月22日付けRFAによれば、アムド、ンガバ州ズンチュ県ムゲ・ノルワ郷(རྔ་བ་ཁུལ་ཟུང་ཆུ་རྫོང་དམུ་དགེ་ནོར་བ།)では、この「国際母語デー」に合わせ、「純粋(漢語を混ぜない)チベット語コンテスト」と呼ばれるイベントを開催することを決定し、広報し、準備を進めていた。しかし、準備もすべて終わった段階で、このイベントの責任者であった、ロトゥ・ギェルツェンと医師であるティメが当局により呼び出された。
「彼らはイベントを中止するよう命令された。『政治的意図が感じられる』というのがその理由という」と現地のチベット人は伝え、さらに「彼らは『母語』というと政治的な意味を含む」といい、「もしも、命令に逆らってイベントを開催するなら、必ず逮捕されよう」と脅したという。
イベントが中止されたことに対し現地のチベット人の1人は「最近では世界中でそれぞれの母語を守ろうと『国際母語デー』というイベントが行われている。それなのに、チベットでは自分たちの母語さえ守ることが許されない。本当に悲しいことだ」と語る。
地区にあるムゲ・タシ・コルロ僧院には2008年以降、僧院内に警察の分室が設置され、今では20人ほどの警官が常住し、僧院だけでなく、付近のチベット人すべての動向を日々チェックしているという。
中国当局が私設のチベット語教室を閉鎖させたり、この種のコンテストを中止させるということは珍しい事ではない。チベット人アイデンティティーを高める恐れのある教室やイベントはすべて政治的と見なされるのだ。漢化・同化政策を邪魔する活動であるからだ。
この種のイベントは最近カム、アムドの各地で行われている。それだけ、漢語まじりのチベット語(セケと呼ばれる)を話す人が増えているということであろう。実際今では、漢語を混ぜずに話すことはもう不可能に近いのかもしれない。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)