チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2014年4月22日
亡命側に布施を行ったとしてチャムドの高僧他7人の僧侶連行
チベット自治区に組み入れられているが、自治区の東端のチャムド地区と北のナンチェン地区は元々チベット的にはカム地方であり、同じ自治区内でもウツァンの人とは気質も違う。自治区内ではこの2地区が当局のチベット人弾圧の標的となっている。弾圧が厳しければ当然人々の反発心も強くなる。
もっとも、地元のチベット人たちが過激な抗議を行っているわけではない、その多くはダライ・ラマ法王の写真を個人的に僧坊や携帯の中に保持していたとか、法王の法話のCDを持っていたとか、当局が政治的ということがらについて携帯でメッセージを送り合ったとかで拘束されるのである。こんな些細なことでも中国では大変な拷問と刑を覚悟しなければならないことなのだ。
今回再びチャムドの高僧が拘束されたが、その罪とは先の3月16日にダラムサラで行われた「ダライ・ラマ法王長寿祈願法要」のために布施を送ったというものである。
今年3月末、チベット自治区チャムド地区パシュ県ツァワ郷にあるパシュ僧院(ཆབ་མདོ་ས་ཁུལ་ཚ་བ་དཔའ་ཤོད་དགོན་བསམ་གྲུབ་བདེ་ཆེན་གླིང་།)に突然警官が押し掛け、僧院のラマであるスパ・ロプサン・テンペル(通称ラマ・テンジンབླ་མ་བཟོད་པ་བློ་བཟང་བསྟན་འཕེལ་ལམ་ཡོངས་གྲགས་སུ་བླ་མ་བསྟན་འཛིན།)と他7人の僧侶を連行した。
この僧院ではこれに先立つ3月16日、亡命側で行われた法王の長寿を祈る法要に合わせ、地区の人々も大勢集まり「ダライ・ラマ法王長寿祈願法要」を行った。このときラマ・テンジンも布施を行い、同席していたという。
その他、僧院と縁のあるクンデリン・タクツァ・リンポチェ(ཀུན་བདེ་གླིང་སྟག་ཚག་རིན་པོ་ཆེ།)がインドでゲシェ・ラランパの試験を受けた時、他の僧侶たちと一緒に同じく布施を送ったとされる。
ラマ・テンジンが拘束される前に、警官はラマの僧坊を捜査し、パソコンや領収書を押収していたという情報もある。
彼らの内1人はすでに解放されたというが、彼の容態やラマ・テンジンを含めその他7人の行方は不明のままという。
このパシュ県では3月4日にも、高僧ロプサン・チュジョルが拘束されている。拘束の原因は携帯を通じ政治的に敏感な情報を送ったことであると言われている。
チャムドでは3月1日に僧侶が拷問死している。チャムド地区にあるウォンパ僧院僧侶タシ・ペルジョルは僧坊から、亡命政府首相であるロプサン・センゲのスピーチが入ったCDとダライ・ラマ法王の著書が見つかったとして2月28日に連行された。
その翌日、明らかに拷問の結果と思われる危篤状態に陥った状態で家族に引き渡された。家族が病院に急送する途中、僧タシ・ペルジョルは死亡した。
当局は毎日、チベット人たちに対し、計り知れない暴力を振るっている。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)