チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2014年4月16日
ウーセル・ブログ「ジェクンド地震で救援活動を指導した高僧カルマ・ツェワン師が逮捕されて既に4ヶ月余り」
2日前の4月14日はジェクンド(ユシュ、ケグド、玉樹)大地震4周年記念日であった。犠牲者の数は当局発表で3千人弱、現地のチベット人は1万人以上という。北京在住の作家ウーセルさんは4月14日付けのブログで、現在チャムドで拘束されているナンチェンの高僧ケンポ・カルツェが、この大地震発生後すぐに現場に駆けつけ、いかに同胞を助けるために奔走したかについて多くの写真とともに語られている。
彼が拘束されすでに4ヶ月が経ち、劣悪な拘置所の中で健康を損ねていると伝えらるる彼を解放せよという声が世界中で高まっている。最近カナダの議会でも議員の一人が彼の解放のためにカナダ政府が中国に圧力をかけるべきだと発言している。
大地震後すぐに現地に駆けつけ多くのチベット人を救ったのはチベットの僧侶たちであった。しかし、遅れてやってきた中国の救助隊は、彼らを追い出し、すべての手柄は中国政府が行ったものだという演出を行った。
中国当局は巨額の募金を集めながら、それを被災者のために使わず、街を全く新たな中国の都市に生まれ変わらせるために使っている。そのために多くのチベット人の土地が強制的に取り上げられた。これに抗議するため、これまでに2人のチベット人女性が焼身している。
原文:领导玉树地震救援的高僧尕玛才旺被捕已经四个多月
翻訳:M女史
ジェクンド地震で救援活動を指導した高僧カルマ・ツェワン師が逮捕されて既に4ヶ月余り
今日、4月14日は、玉樹(チベット語でジェグ)地震4周年の記念日である。
4年前、無数の家屋が壊滅し、無数の生命が喪われた。すぐさま、チベット全土の各地から4万人を超す僧侶が救援に駆けつけた。まさに、あるチベット人ボランティアが現場からの返信でこう語ったように。「……ジェグの救援活動の中で、見る者にとめどない涙を流させたあの深紅の色を永遠に銘記する」
中でも、ジェクンド州ナンチェン県、チャパ僧院のケンポ・カルマ・ツェワンは、僧院の全ての僧侶と共に真っ先にジェクンドに駆けつけて懸命の救援活動を行い、4万人余りの救援の僧侶たちに慈悲と利他、団結の精神を示した。彼らは昼間は生存者の救出と捜索に当たり、夜は犠牲者を供養し生存者を慰め、ケンポ・カルマ・ツェワンのいる僧院が集めた地震犠牲者のリストだけでも5千人分余りに上った。あるチベット人ボランティアは、ケンポ・カルツェの精神は仏陀の時代の僧侶を思わせた、と言う。1年後、ケンポ・カルマ・ツェワンの計画で取材・制作されたジェクンド地震の記録映画《災難の中の希望》は、チベット人の団結は壊滅的な地震から立ち直るための動力であると称賛し、そのCD-ROMは当局に没収された。
ケンポ・カルマ・ツェワンは1975年生まれ、青海省ジェクンド州ナンチェンの人で、出家してチャパ僧院に入って長く、セルタのラルン・ガル僧院で学んでいたこともあり、東チベット・カム地区でとびぬけて誉れ高い若い世代の高僧で、ナンチェン、ジェクンド、チャムドなどの地のチベット人の間では広く「我々の真のリンポチェ」とみなされていた。彼は僧院の座主であり仏教学の高僧であっただけでなく、当地でずっと、チベット文化の保護や生態環境の保護、衛生・健康知識についての講演、チベット語学習の教授と普及などの事業に従事していた。
彼はまた、2010年のドゥクチュの大土石流、2013年のヤク・ンガの地震の時にも救援に参加していた。
しかし、今、ケンポ・カルマ・ツェワンが獄中の身となって既に4ヶ月になる。昨年12月7日深夜1時、成都にいた彼は、チベット自治区チャムド地区の公安に省境を越えて逮捕され、チャムド公安処の駐成都事務所に拘禁され、12月14日にはチャムドに連行されてチャムド地区国保大隊のオフィスに拘禁され、12月25日から今に至るまで、チャムド地区の留置場で拘禁されている。チャムド警察は初め彼に“国家の安全に危害を加えた”罪を言い渡したが、今年2月には彼の弁護士である唐天昊に対し、罪名は“隠匿罪”に変わったと告げ、また、これは治安にかかわる重大案件であるとして、健康状態の極めて悪いケンポ・カルマ・ツェワンの重病治療のための一時出所を許していない。
ここに、ケンポ・カルマ・ツェワンと大勢の深紅の僧侶たちがジェクンド地震の被災者救援に当たっている写真を貼る(ほとんどすべての写真にケンポ・カルマ・ツェワンが写っている)。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)