チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2014年4月4日
ディル:秘密裁判により地区の指導者5人、その他1人に10~18年の刑
チベット自治区ナクチュ地区ディル県では昨年9月より、中国政府による愛国再教育が強化され、各地で中国政府への完全服従を示すために中国国旗の掲揚を強要した。これに対し、9月27日、ディル県モワ村とムンティム村の住民を中心に、当局から渡された中国国旗を家に掲げる代わりに川に流すという事件が起り、数十人が連行された。次の日には政府庁舎の前に、村々から集まった千人以上のチベット人が座り込み、政府の政策に抗議し、拘束されたモワ村とムンティム村の住民の解放を要求した。
それ以来、ディル県の各地で抵抗運動が広がり、小中学校の生徒も学校に中国国旗を掲揚することに反対した。各地で村人たちがデモを行ったが、これに対し当局は無差別発砲を含む厳しい対応を行った。現地の人によれば、これまでに数人が死亡し、数百人が拘束され、拷問を受けたという。この内、最近2人が拷問死している。また、「これまでに判明しているだけで13人に刑が与えられたが、誰一人まともな裁判を受けた者はいない」とディルの住民はいう。
昨年中にディルで拘束され行方不明になっていた6人に、長期刑が言い渡されていたことが最近判明した。6人の内5人は、地域のチベット人に影響力のあるものたちばかりである。当局は何れの場合も家族に対しても正式な罪状を明らかにしていないというが、明らかに地域のチベット人全体の団結力を落とさせるために指導的立場のチベット人たちを長期刑に処し、消し去ろうという意図と思われる。
ダライ・ラマ法王の写真と法話CDが見つかり18年の刑
ドンナ僧院は昨年暮れに同じくディル県にある他の2つの僧院と共に弾圧を受け、僧院は閉鎖され僧侶数名が拘束された。その内の1人である僧院の責任者タルドゥ・ギェルツェン(ཐར་འདོད་རྒྱལ་མཚན།54)が今年1月中に18年の刑を言い渡されていたことが最近判明した。
僧タルドゥ・ギェルツェン(若い頃の写真と思われる)。
僧タルドゥ・ギェルツェンは部隊が僧院に入り、各僧房をチェックした時、彼の僧房からダライ・ラマ法王の写真と法話が入ったCDが見つかったことにより拘束されていた。
家族は彼が刑を受けたことを最近知らされた。「罪状等はないも書いてない、刑期18年と書かれた手紙」だけが当局から届いたという。
「彼は地域の人々が指導者と仰ぐ僧侶であり、学校も作り、チベットの文化と言語を守ろうとしていたからだ」と現地のチベット人は話す。
1960年生まれの僧タルドゥ・ギェルツェンは幼少のころラサのガンデン僧院に入り、そこで長年勉学に励んだ。その後、故郷のドンナ僧院に入り1992年、僧院の読経師となり、1998年から僧院の責任者となっていた。
1969年、ディルの男たちが中国支配に異を唱え、文化と宗教を守るために武器を持って立ち上がったとき、彼の父ジュンネも銃を持ちこれに参加、撃ち合いの中で死亡した。彼の叔父であるタシ・シタルもこのとき逮捕され死刑を言い渡された。しかし、彼は逃げ、その後13年間逃亡生活を続けた。80年代の緩和政策により彼の死刑が取り下げられ自由になったという。
ドンナ僧院は11世紀に創建された由緒ある僧院である。同じく僧タルドゥ・ギェルツェンの叔父であるケンラップ・チュダクは中国が来る前、ドンナ僧院の僧院長であった。僧院は文革時に完全に破壊され、僧院長であったケンラップも逮捕され15年獄に繋がれた。解放された後、彼が僧院を再建したという。
参照:3月31日付けTibet Timesチベット語版
4月1日付けTibet Net英語版
作家に13年、元警察官に10年の刑
昨年10月11日と12日、ディルの作家ツルティム・ギェルツェン(ཚུལ་ཁྲིམས་རྒྱལ་མཚན།27、筆名ショクディル)と彼の友人である元警察官ユルギェル(གཡུལ་རྒྱལ།)が拘束され、その後行方不明となっていた。
「今年3月になり家族は初めて、彼ら2人がラサのチュシュル刑務所に収監されているということを聞かされた」「ショクディルの兄とユルギェルの妻がラサに向かい、彼らと面会することができたが、それはたった10分間だけだった。そのとき、はじめて刑務所側から彼らの刑期について聞かされた」と現地から報告される。ツルティム・ギェルツェンに13年、ユルギェルに10年の刑と言われたという。
ユルギェル。
「家族は彼らの刑期や罪状に関する手紙が当局から送られてくるだろうと思っていたが、今も何も送られて来てない」と同郷のチベット人が伝える。
2人は昨年9月28日に、ディル県の政府庁舎前に政府の政策である愛国教育に抗議するため千人以上のチベット人が集まったとき、これをなだめ、説得するためにその場に出て来た政府高官に対し、前に出て政府を糾弾するスピーチを行ったと言われる。これが逮捕の直接の原因と思われている。
参照:4月1日付けRFA英語版
4月2日付けTibet Timesチベット語版
郷長2人に10年、その他1人に13年
4月3日付けTCHRD(チベット人権民主センター)リリースによれば、去年11月24日に突然失踪し行方不明となっていたディル県ムティム郷の責任者2人に今年1月14日、それぞれ10年の刑が言い渡されていたことが判明した。
家族は最近彼らが刑を受けたという情報を、ある公安関係者から聞かされたという。しかし、どの刑務所に収監されているのか、健康状態はどうなのかについては今もまったく分かっていない。
その公安関係者によれば、1980年からムティム郷の郷長であったンガダク(ངང་གྲགས།54)に10年、同じく2007年から郷長であったリクセル(རིག་གསལ།31)に10年の刑という。罪状は明らかでないが、地区の人々は、彼らが罰せられた理由は、ムティム郷の安定を維持できなかったからであろうという。
去年9月27日、ムティク郷のチベット人たちは中国政府の国旗掲揚の命令に従わず、次の日に政府庁舎前で行われた大デモに大勢が参加した。また、ドンナ僧院閉鎖に抗議するデモが起ったときにもムティク郷のチベット人が参加した。
ンガダクに対しては、デモを煽動するために、秘密裏に自宅に17人を集め話し合いを行ったという嫌疑もかけられていたという。
その他同じくムティク郷出身であるティギェル(ཁྲི་རྒྱལ།)と呼ばれるチベット人に13年の刑が言い渡されたと言われるが、彼の居所や健康状態、その他の詳細は不明のままである。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)