チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2014年2月10日
ディルで2人に長期刑
最近相次いで拘留されていた2人のチベット人が拷問死したディルで、拷問死したゲシェ(博士)・ガワン・ジャミヤンと一緒にラサで拘束され、行方不明となっていた僧侶と、もう1人、その拘束が大きな解放要求デモとこれに対する当局の無差別発砲という事態を引き起こしたチベット人に長期刑が言い渡された。
チベット民主人権センター(TCHRD)が2月7日付けリリースで伝えるところによれば、去年11月23日にラサで逮捕され、最近拷問死したゲシェ・ガワン・ジャミヤンとともに拘束されていた、タルモ僧院僧侶ケルサン・チュラン(སྐལ་བཟང་ཆོས་གླང་།)に対し、当局は1月中に10年の刑を宣告した。
僧ケルサン・チュランはディル県ツァチュ郷ウタン村の出身。現地のチベット人たちによれば、彼はおそらく「違法に人々を集めた」という罪をきせられたのであろうという。「僧ケルサン・チュランはチベットの伝統的文化を深く愛し、敬意を示していたことで知られる。彼はいつもチベット文化の保護と異民族間の融和を説いていた」と伝えられる。
同じく1月中に、俗人であるドルジェ・ダクツェルに11年の刑が宣告された。11年の内、7年は去年5月3日に聖山ナクラ・ザンバラの鉱山開発に反対する抗議デモが行われたとき指導者の1人であったからとされ、3年は喜んで他人に金を貸したからとされ、残りの1年は役人の活動を妨害したからと伝えられる。
しかし、これらの罪状の内、特に2番目の「他人に喜んで金を貸したために3年の刑」というのは、普通に考えると不可解な話しである。「困っている人を助けるために金を貸した可能性もある」とTCHRDはコメントする。詳細な情報が伝わっていないのでこれ以上は今のところ不明である。
ドルジェ・ダクツェルは去年10月3日に拘束された。10月6日、これを知った同郷であるダタン郷の住民数百人が彼の即時解放を求めデモを行った。これに対し、当局は約300人の部隊を現場に起り込み、鉄棒、ガス弾、無差別発砲で応じた。この結果、少なくとも4人が被弾し、重軽傷者は60人に上ったといわれる。
「去年ディルで始まった、習近平の『大衆路線』キャンペーンにより、何百人ものチベット人たちが当局に狙われ、逮捕され、行方不明になっている。多くのチベット人たちが無実の罪をきせられている。情報網の規制により多くのチベット人たちが行方不明のままだ」「ナクチュの東部にあるディルを含む3つの県で情報網が完全に経たれ、住民は友人や家族と連絡することもできず困り果てている」と現地の人が伝える。
去年9月に始まったこの『大衆路線』キャンペーンにより、中国国旗掲揚強制等が行われたため、ディルではこれまでに分かっているだけでも、4人が射殺され、2人が拷問死し、大勢のチベット人が恣意的に拘留され、また長期刑を受けている。これら抗議デモの原因は明らかに中国側の挑発と暴挙にある。
ダライ・ラマ法王は「習近平氏は現実的で行動力がある政治家のようなので期待している」とおっしゃるが、はたして本当にそうなのか?ほとんどのチャイナウォチャーは習近平政権になり、この『大衆路線』という如く毛沢東時代のスローガンを持ち出し、増々統制を強める方向に向かっていると見ている。
その他参照:2月8日付けTibet Timesチベット語版
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)