チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2014年1月10日
セルタ、ラルン・ガル法域で火事
ニンマ派のケンポ・ジグメ・プンツォクにより創建された四川省カンゼチベット族自治州セルタ県にあるラルン・ガル法域は、彼のカリスマ性にもより一時は1万人を越えるチベット随一の巨大法域となった。中国人の僧侶、尼僧が多いのがここの特徴である。当局はここが巨大になり、ケンポの影響力が絶大になるのを警戒し、2001年、違法建築を理由に多くの宿坊を破壊した。その時のリーク映像はここ。ケンポ・ジグメ・プンツォクはその後2004年に心不全により亡くなっている。
ラルン・ガルはその丘を埋め尽くす僧房群が圧巻であり、多くの旅行者が訪れる場所ともなっている。
RFAによれば、火事は昨日午後8時ごろ、尼僧院の本堂(ギュトゥル・ラカン)裏に群がる尼僧たちの宿坊から出火したという。出火と同時に僧侶、尼僧、一般人が消火に努めたが、宿坊は密集しており、おりからの冷たい強風に煽られ火の勢いは強く、もともと乏しい水も凍っており、消火は思うように進まなかったという。
後に軍隊と2台の消防車が来て、消火作業を行ったという。夜明け後の写真がまだ伝えられていないので、どれほどの被害がでたのかは現時点ではまだ確かではない。RFAは現地の人の話しとして「約100棟焼失」と伝える。Tibet Timesは「50~80棟」といい、中国の新華社は「10棟」と発表し、450人が消火作業を行っているという。この「棟数」というのが、「部屋数」の可能性もありえる。
負傷者についても、「病院に運ばれたものがいる」という情報もあるし、「幸い負傷者は出ていない」との情報もある。
火災の原因については、電気のショートという説もあり、「中国人の尼僧が灯明を灯したことから火事となった」という噂もある。未だ、原因は特定されていない。
ラルン・ガルのケンポの1人は「(火災の)画像が誇張や虚偽の風説に利用され、寺院の仏教や福祉事業をつぶす口実にされるのを防ぐため、投稿は削除してください。ご理解ご協力に感謝します」「僧坊を強制撤去する消防局の口実にされないよう、画像の削除が必要」とウェイボ上で訴えている。この僧院が当局に睨まれており、指導的僧侶たちが今後の当局の出方を心配している様子が伝わって来る。
その他、ラルン・ガルの写真(帰山 鷹丸撮影)
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)