チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2014年1月4日
拘束されている高僧が「私の解放のためにことを起こすな」と手紙
カム、ナンチェン、チャパ僧院のケンポ・カルツェ(又はケンポ・カルマ・ツェワン)は12月6日、成都で自治区チャムドの警察により拘束され、チャムドに連行された。18日には、彼の解放を求め、チャパ僧院の僧侶約300人と地区の住民約200人が、「師を失った弟子たちの苦しみを知ってほしい」と書かれた横断幕を掲げ、ナンチェンへと行進を始めた。
このときの行進の様子が写された貴重なビデオが海外に伝わった。最初、チャパ僧院の前で集まった僧侶たちが行進を始め、徐々に地域のチベット人たちが合流する。僧侶たちは頭にケンポ・カルツェの写真を白い鉢巻きで留めている。途中、当局により道を阻まれたと思われる場所で、集まった僧侶や俗人が嗚咽とともに、ケンポの解放を求める姿が写っている。
そこに、県の共産党書記と副書記が現れ、「ケンポ・カルツェは以前チャムドのカルマ郷で起きた爆弾事件に関連したとして、チャムドの警察により連行されたのだ。事件の後、カルマ僧院の僧侶たちの多くが山を越えてチャパ僧院に逃げ込んだが、彼らをケンポ・カルツェが匿ったというのだ。自分たちにはどうしようもない。だから、みんなもう家に帰れ。このまま、ことを大きくすれば大変なことになるぞ」と半ば脅しの説得を行う様子も写っている。この後、僧侶たちは解散したが、3日後にこの行進に参加した者の内16人が連行されている。
そして、最近チャムドで拘束中とされるケンポ・カルツェ本人が弟子や地域のチベット人に宛てて書いたという手紙が公開された。
以下その訳:「私は今、チャムドの拘置所にいる。殴られるとか衰弱しているとかいうことは全く無い。だから、僧院の僧侶や地域の住民も必要以上に心配しないでほしい。特に僧院で通常の勉学を続け、村人が普段の生活を続けることは長期的に大切なことなので必ず続けてほしい。自分1人のために1人でも困難な状況に陥るようなことは決して行わないでほしい」
この手紙は確かに本人の自筆と思われている。拘置所からの手紙が届けられたという話しはまず他に聞かない。どのような状況の下で書かれたのかは不明である。
家族に雇われた中国人の弁護士が彼と面会するためにチャムドに向かったが、チャムドの警察はケンポ・カルツェの拘束の事実自体を否定し、弁護士は会えないままという。
参照:1月3日付けRFAチベット語版
この事件に関するウーセルさんのコメントを紹介するRFAチベット語版(ウーセルさんの声は中国語)
ビデオを見ればケンポ・カルツェがどれほど弟子たちや地元の人たちに愛されていたかが伺われる。彼らが泣きながら訴える「師を失った弟子の苦しみ」とは「ダライ・ラマ法王を失ったチベットの人々の苦しみ」とも重なって聞こえる。
*「ケンポ」とはカギュ派やニンマ派で教師の資格を得た僧侶に与えられる尊称。僧院長であることも多い。ゲルク派で「ケンポ」と言えば僧院長。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)