チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2014年1月3日
焼身者を守ろうとした僧侶 「故意殺人罪」で6年の刑
2012年12月2日、アムド、サンチュ県ボラ郷ボラ僧院前で、17歳にして1児の父であったスンドゥ・キャプが中国政府に抗議するため焼身した。その後、「両足切断か?」という報告が入っているが、彼が死亡したという報告は入っていない。
彼が焼身したすぐ後、駆けつけた部隊が彼を連れ去ろうとしたが、このときこれを阻止しようとしたボラ僧院僧侶たちと衝突があったと伝えられていた。次の日12月3日には、大勢の警官や役人がボラ僧院に押し掛け、今回6年の刑を受けたゲンドゥン・ギャンツォ(47)を含め5人の僧侶が連行された。ゲンドゥン・ギャンツォ以外は数ヶ月拘束されたのち解放されている。
僧ゲンドゥン・ギャンツォ
僧ゲンドゥン・ギャンツォは1年間拘束された後、去年12月10日、サンチュ県人民法院により「故意殺人罪」で6年の刑を言い渡された。
彼の裁判には4人の親戚が傍聴することを許された。法廷では現場に駆けつけた警官が「焼身者の火を消そうとした時、ゲンドゥン・ギャンツォが妨害した」と証言した。これに対し、ゲンドゥン・ギャンツォは最後まで、罪状を否認し続けたという。しかし、彼の主張は聞き入れられず、結局6年の刑と決定された。
僧ゲンドゥン・ギャンツォの刑を通知するサンチュ県人民法院の公告
僧ゲンドゥン・ギャンツォはボラ郷ラブン・タンリ・ガプマ村の出身。80歳になる彼の母ソナム・ツォは彼の消息を知らされていないという。「誰も母親に本当のことをいうことができない。彼女は今も息子は長い旅にでているが、近い内に帰って来ると思ってる」と現地から報告される。
参照:1月1日付けTCHRDリリース
1月2日付けTibet Timesチベット語版
焼身したスンドゥ・キャプは死亡したのであろうか?死亡していないのに「殺人罪」というのがありえるだろうか? どちらにせよ、僧ゲンドゥン・ギャンツォにスンドゥン・キャプを殺害しようという意志が皆無であり、逆に助けようとしたことは明白である。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)