チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年12月18日
囚われのチベット人歌手解放署名キャンペーン
ロンドンベースのチベット支援団体Free TIBETは最近、この2年間にチベット内地で当局により拘束された8人の歌手の即時解放を中国政府に要請するというキャンペーンを始めた。
集められた署名と一緒に解放要求の手紙が現中国の司法大臣である吳愛英に渡される(送られる?)という。
すでに、有名ミュージシャンとしてPeter GabrielをはじめRadioheadのThom Yorke 、Ed O’Brienがサインし、さらにSystem of a DownのSerj Tankian、CornershopのTjinder Singhも支援を表明したという。
解放要求リストに名前が上がっている8人とは:
(それぞれの歌手についての詳しい経歴や歌の日本語訳は過去ブログを参照。名前をクリックすれば飛べる)
1、ロロ 刑期6年
2、シャオ・タシ 刑期5年
3、ペマ・ティンレー 刑期2年
4、チャクドル 刑期2年
5、ウゲン・テンジン(タシ)(刑期2~ 解放か?)
6、チョクセル 不明
7、アチョク・プルジュン 行方不明
8、ケルサン・ヤーペル 行方不明
この内ロロ、シャオ・タシ、ペマ・ティンレー、チャクドルは2013年中に逮捕され刑を受けた。ウゲン・テンジンは2010年に3年以上の刑を受けたというものと、2012年に2年の刑を受けたという2通りの情報があるが、何れにせよRFAによれば彼は2013年10月18日、すでに解放されているという。アチョク・プルジュンは2012年8月に拘束されて以来、消息不明のままである。ケルサン・ヤーペルは2013年7月に拘束され、その後行方不明。その他、最近ディル県で2人の歌手ティンレー・ツェカルとゴンポ・テンジンが拘束されている。
この他にもリストに上げられていないが、2011年8月には女性歌手ラルン・ツォが、9月には歌手チュゴンが拘束され、何れもその後消息が途絶えたままである。2012年10月頃拘束されたと思われているンガバの歌手ギェペも未だ行方不明。2013年5月にはンガバの歌手ペマ・リクジンが拘束されている。
Free TIBETは吳愛英宛の手紙の中で「表現の自由は世界人権宣言第19条によって保証されている」として「同胞への思いを母語で歌うことは犯罪ではない」という。
Free TIBET代表であるEleanor Byrne-Rosengrenは「音楽はチベットの抵抗運動の中で大きな位置をしめている。ロロのような歌手は中国が消し去ろうとしている文化を存続させるだけではなく、60年間の占領を経験しながらも、尚も誇りを失わず、挑戦続ける人々の希望と恐れ、勇気を明確に表明しているのだ」という。
さらに、彼は「去年、世界は捕らえられたロシアの女性ボーカルグループ<*Pussy Riot>のことを大いに話題にし、彼女たちの解放を求めたが、チベットの歌手たちは同様の扱いをうけることがない」といい、「中国は情報を封鎖し、彼らを黙らせることができるかもしれないが、外地にいる我々が彼らを解放せよという声を黙らせることはできない」と続ける。
これらの捕らえられたチベットの歌手たちが歌った歌の歌詞を読めば誰にでも分かることだが、彼らは中国の支配下にある普通のチベット人たちの心情を素直に代弁しているだけだ。ダライラマ法王への思慕、自由、団結、文化保存、チベット人としてのアイデンティティー称揚を歌っているだけだ。中国の政治的弾圧、同化政策によりこれらが危機に瀕していると感じるからだ。しかし、その中に過激な言葉は一つもない。
チベットでは本心を口に出すと逮捕される。まして歌を作り広めるということはよほどの覚悟がいることなのだ。
総人口600万人と言われるチベット人の中から、名の知られた歌手が2年間に10人以上逮捕されるというのは、異常というしかない。
このキャンペーンに支援を示すためにサインできるのは所謂音楽家だけなのかどうか、よくわからない。署名目標数は1000と最初からとても控えめで、今日時点ですでに700を越えている。自身音楽家の方はすぐにサインするとして、お友達の中に音楽家がおられる方はその人たちに勧めてみては如何でしょうか。
ここにアクセスし名前とメールアドレスを記入するだけ。
*Pussy Riotは今日、ロシア政府のアムネスティーにより解放されることが決まったという。抗議運動が実を結んだとBBC。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)