チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年11月20日
江沢民など元中国指導部の5人に逮捕状 スペインジェノサイド裁判
11月18日、スペインの国家裁判所はチベットにおけるジェノサイド、人道に対する犯罪に関与した容疑で中国の元国家主席江沢民ほか5人の政府幹部に逮捕状を発行した。
主犯と見なされる前国家主席胡錦濤についてはすでに10月9日の時点で同裁判所により起訴されているが、逮捕状はまだ発行されていない。この時点で北京はスペイン政府に対し「内政干渉である」として強力に反発し、圧力を掛けている。今回も共同通信によれば今日、中国外務省の洪磊副報道局長は20日の記者会見で「事実なら強い不満を表明し、断固反対する」と反発し、「誤った決定を変更するよう要求する」と訴え、江沢民らを訴えたチベット人組織に対しても「(中国を)侮辱する事案をでっち上げ、中国政府を攻撃しようとしている」と述べ、強く非難した。
スペイン司法当局はテロ、麻薬犯罪、トラフィキング、海賊行為、マネーロンダリング、国家指導者による人道犯罪等が当時国で裁かれない場合、普遍的管轄権にもとづき第三国の法廷が管轄権を持つとの立場を取りこのような国際裁判をかつても行っている。1998年には、南米チリで独裁体制を敷いたピノチェト元大統領がロンドン滞在中、スペインの犯罪者引き渡し要請に基づいて英警察に逮捕されたということもあった。もっとも彼はその後健康を理由に解放されている。江沢民は2009年にも、法輪功迫害の主謀として、同裁判所により「ジェノサイド」と「拷問罪」で起訴され受理されている。
このチベットジェノサイド裁判はスペインにあるチベットサポートグループであるComite de Apoyo al Tibet (CAT) が2006年に提訴し、2008年から審議が始まっていた。2008年5月に証人としてダラムサラから3人の元政治犯が呼ばれたと時の話しはここと、ここ。一旦2009年に今回の5人と胡錦濤を含む8人に対し人道に対する罪を犯した容疑で裁判に召還することを発表し、中国に通知したが、中国は逆にこのときの裁判官ペドラズが中国に渡航した場合は逮捕すると脅した。
その後、一旦審議は中断されていたが、今年に入り10月にまた再開された。そして11月18日には容疑者尋問のために中国の元指導者たちを在スペイン中国大使館を通じ召還したが、彼らがこれに応じないということで今回の決定に至ったというわけだ。
これにより彼らは国際手配され中国国外に出た時外国の空港で拘束される可能性がある。また、海外の銀行口座が凍結される可能性もある。実際には彼らが国外にでることも、そこで逮捕されることも可能性としては薄いかも知れないが、正式に国際的裁判所で審議が行われているという象徴的意味は大きいと思われる。
今回逮捕状が出されたのは80年代終わりから90年代初めにかけてチベット弾圧に関係した江沢民と元首相の李鵬、1989年にラサで戒厳令が敷かれた時に公安局長であった喬石、1992年から2001年にかけてチベット自治区書記であり強硬政策を行った陳奎元、90年代に家族計画大臣であった彭佩云である。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)