チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2013年11月18日

リタン僧院本堂焼失

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1454851_5400285111月16日の夜9時半頃、カム地方でもっとも立派な僧院の一つであるリタン僧院の本堂の一つに火の手が上がり、瞬く間にほぼ完全に焼失した。

出火と同時に、僧侶、俗人が懸命の消火作業を行ったが、あまりに火の勢いが強く、効果はなかったという。その間にも僧侶が中に入り古いお経等貴重な物品はほぼ持ち出すことができたというが、それでも持ち出すことができず消失した貴重な歴史的物品もあったと言われる。

消火作業により2人の僧侶が負傷したが、命には別状ないと伝えられる。

出火の原因については、電気のショートであるとか、灯明の不始末であるとか言われているが、特定されてはいないようだ。

「中国の消防隊はまったく来なかった」という話しも最初のころあったが、RFAに情報を伝えた現地チベット人によれば「消防隊はほぼ完全に焼け落ちたあとやって来た。来ると、消火作業等をしていたチベット人を完全に排除し、現場に近づけないようにした」という。

1463640_536343823106842_1477213084_n一方、政府系メディア新華網では、「火災発生後に武装警察300人と政法幹警200人、職員・労働者2000人、僧侶・農民(人数記載なし)、消防車20台が駆けつけたと」とされる。映像も出ているが、それを見る限り少なくとも火が燃え盛っているころに消防隊が来ていなかったことは確かである。

追記:現地からの情報によれば、消防隊は出火後5時間たってやっと来たという。「政治的なビラを張り出したり、デモを行えば直ちに駆けつけるのに、何で誰にでもすぐ分かる僧院の火事にはそんなに時間が掛かるのか?」との声も聞かれる。

このリタン僧院(ガンデン・トゥプチェン・チュコルリン)はダライ・ラマ3世ソナム・ギャンツォにより1580年に創建されたと言われる。徐々に増築され中国に侵略される前には巨大な僧院となっていた。1956年、共産軍により大きく破壊された。また1966~76の文化大革命の間に再び破壊を被った。

jpg-large焼けただれたこの本堂の本尊弥勒菩薩。

現在あるほとんどの建物は80年代以降、地元の人々が寄付を集めて再建したものである。今回消失した本堂についてRFAには地元の人の話しとして「ダライ・ラマ3世ソナム・ギャンツォが建てたものである」ということが書かれているが、他の情報では80年代以降に新しく建てられたものだという情報もある。

リタンはチベットゲリラ組織チュシガントゥクの総司令官ゴンポ・タシの出身地でもあり、中国の侵略に対しゲリラ戦を行い激しく闘った。1956年にはゲリラ部隊や住民がろう城していたリタン僧院に対し、人民解放軍が激しい爆撃を行った。その結果僧院は壊滅状態となり、少なくとも3~5千人が死亡したとされる。

1380663_516979065043318_73890161_n焼けたお堂は写真右手の建物。今年夏の写真(帰山鷹丸撮影)。

2007年には競馬祭で大勢の人が集まる前でロンゲ・アタが法王帰還を訴える演説を行い、8年の刑を受けている。2008年にも大きな抗議デモがあった。現在の亡命政府首相ロプサン・センゲの両親の出身地もこのリタンである。政府が行う愛国再教育に対しても常に抵抗の姿勢を見せるという、カンゼと共にカムを代表する反骨精神旺盛な土地柄である。

その他参照:11月17日付けRFAチベット語版
11月18日付けTibet Timesチベット語版

67031_602446356489948_188036056_nリタン僧院全景。手前の白いお堂が今回焼けたもの(林明日香撮影)。

1426280_678646395503288_1300109827_n焼けたお堂の内部(Dorje Nakai撮影)。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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