チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年11月11日
文革レストラン
ラサに「文革レストラン」があったとウーセルさんがツイッターやフェイスブックに写真付きで紹介されていた。これをうらるんたさんが日本語にしてブログに載せられていたので、了承の上これを転載させて頂く。
文革中100万人ほどのチベット人が飢えや虐殺により死亡し、中国全土でウン千万人が死亡したと言われる。中国共産党による締め付けが増々激しくなるチベットの状況を「まるで文革が再来したようだ」と形容するチベット人も多い。そんな中、習近平は文革批判を否定し、ネオ文革政治に向かっていると見る専門家も多い。
最近中国本土で文革レストランが流行り始めたという話しは聞いていたが、なんとラサにも文革レストラン、そして日本の東京池袋にも文革レストランがオープンしているのだ。
東京の文革レストランの写真等を見たい方はここ。
[ラサに文革レストラン][チベット人作家ウーセルさんのツイート]
ラサに文化大革命をモチーフにした火鍋レストランがある。重慶のオーナーが開いたものだ。チベット人と漢人の男女スタッフは紅衛兵の服装を身につけている。さまざまな文革プロパガンダイラストやインテリア、いろいろな毛沢東語録や知識青年(文革で農村山村に下放された知識階級の若者)の写真、さらには、文革中にこのうち何人かがむごたらしい死を遂げたことが明らかな中国共産党10大元帥の肖像まであり、さらに改革開放派・鄧小平の軍服姿の巨大な写真、合間合間にさしはさまれる文革歌曲や毛沢東に忠誠を誓う踊りのパフォーマンスなどなど、ごちゃまぜのしっちゃかめっちゃか…。
ラサのこの『大隊長』という名の火鍋レストランははっきりと文革をモチーフに打ち出している。火鍋が中盤に差し掛かると、紅衛兵にふんした漢人やチベット人のスタッフが舞い踊る。流れる曲は、毛沢東語録の歌や文革歌曲に替え歌したチベット歌曲から90年代に流行した台湾や香港のヒットソングまで、どこのものともつかない得体のしれないものだが、すべて目的は客に金を落とさせるためだ。ただ(このレストランの)毛沢東像の隣には4人の姿がない。チベット仏教寺院がすべて「5人のリーダーの肖像」(毛沢東、鄧小平、江沢民、胡錦濤、習近平)を掲げなければいけないことを鑑みれば、ここも同じものを掲げるべきだろう。
※「古き良き時代」をなつかしむ、あるいは「自分たちの知らない過去の物珍しい情緒」として1960~1970年代の文化大革命時代を消費するようになった中国ですが、チベットの現実は文革と同じ状況にあることを皮肉って言っているのですね
ついこの間、国際チベット支援組織はインターコンチネンタルホテルズ・グループが「インターコンチネンタル・ラサ聖地天堂」(英語名は「インターコンチネンタルリゾート・ラサ・パラダイス」)を建設することに抗議した。チベット人の人権を侵害している中国共産党政権に宣伝の機会を与えることを批判したものだった。しかし実際のところ、それと同時期かもっと早くから、既にこの「大隊長」のような文革をほめそやすレストランがラサに出現してしまっている。暗黒の文革の亡霊は消えることなく、食い意地を口実にして再び勢いを盛り返そうとしている。
とてもはっきりしているのは、中国は今、文革をモチーフにしたあれこれを世界に向けて売り込みをかけ、じわじわと盛り上がりを見せていることだ。最近、中国新聞社は「中国人が東京に『東方紅』レストランを開いた」と得意げに報じ、同じような毛沢東の肖像や紅衛兵姿のスタッフを紹介していた。ラサのこの火鍋レストランは、我々はまだ日本に支店を出してはいないが、最近アメリカ進出を企画している、もし実現すれば、そこも個室レストランになるだろうと話した。
原文付きはこちら。
[ラサでカフェ「スピン・カフェ(風転珈琲)」を経営する香港人パズさんの投稿]
こちらもうらるんたさんの訳と解説。
チベット・ラサには文革をモチーフにしたレストランがあり、チベット人のスタッフが紅衛兵の服装をして(一部はイヤリングをつけたまま)文革時代の踊りを舞い、トイレには「冲!冲!冲!」*と書いてある。
僕たちがワインボトルを開け、ワイングラスを頼むと、ウェイトレスは「ワイングラスをお持ちできるのは個室貸切のお客様にだけです」と答えた。それで僕たちはバイチュウ(白酒)用の小さなさかずきで(ワインを)飲むしかなかった。
重慶人オーナーは文革をテーマにしていると話したが、ワイングラスにも階級が残っているだなんて、根本的に「走資派」(文革時代の用語で、資本主義復活をはかる反革命派のこと)だ!!(以下追記)
*「冲!冲!冲!」:突撃! 前へ進め!の意味で、戦争や、革命を推し進めるよう呼び掛けるスローガンに使われる単語ですが、同時に「(水を)押し流す」「(水洗トイレの洗浄スイッチを押して)便器に水を流す」意味もあり、トイレに貼られると「水を流せ!」の意味になります。最初からトイレに貼るために作られた文革時代風のジョークポスターがあります。(ラサのもそれだと思われます)池袋にある文革レストランのトイレにあるらしいジョークポスターはこんなのです(画像貼れないのでリンク)
「同志たちよ、大であろうと小であろうと、ゆめゆめ忘れるでないぞ、『流せ!』」
的に、スローガンももじって便所ジョークにしてある失笑ポスターですね
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)