チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年11月8日
ディルで再び17人拘束
ナクチュ地区ディル県は現在チベット自治区に編入されているが、伝統的にはカムの一部である。従って人々の気質はカム的。1959年や69年に大規模蜂起を行い、その結果共産軍による虐殺を経験している。2008年にも各地で反乱事件が起こり、これもまた厳しい弾圧に遭っている。その後も継続的に抗議デモが発生し、チベット自治区の中でもっともホットな地域である。
2012年10月4日、作家グドゥップが焼身して以来、ツェポ、テンジン、ツェギェと合わせて4人がこの年焼身している。そして、今年9月末から再びこのディルで当局の愛国再教育に反発し、抗議デモが頻発し、これに対し当局が発砲を含め厳しい対応を行ったことにより、事態は悪化の一途を辿っている。
そんな中、再びある村で10人以上が拘束されたというニュースが入った。11月3日、4日にかけディル県シャムチュ郷テンカル村で17人が拘束されたが、事件の経緯は以下のようであると伝えられる。
まず、10月11日、このテンカル村に警官がやって来て作家ツルティム・ギェルツェン(27)の自宅に押し入り、彼を連行した。次の日の早朝には彼の友人であった元警官のユルギェル(26)も自宅から連行された。この後、彼ら2人は行方不明となった。これを知った村人たちは地元の役場に何度も足を運び、彼らの無実を訴え、解放することを求めた。これに対し役人は「5人以上が集まってこのようなことを行うなら、それは政治的行動と見なされ罰せられる。言いたいことがあるなら書面で提出しろ」といった。そこで、書面で何度も訴えたが、まったく聞き入れなかった。
11月3日には逆に、県と郷から大勢の役人が警官を伴って、村に現れ、村人たちを囲み「政治教育」を始めた。この時サルキ(49)、ツォペン(47)、ヤンキ(25)という3人の女性が立ち上がり、「こんな静かで平和な村に何しに来たのか?ツルティム・ギェルツェンとユルギェルをどうして逮捕したのか?彼らが何か罪を犯したというなら、それはどのような法律に依るのか、詳しく説明せよ!」と迫った。役人たちはこれに答えず、警官を呼び3人を拘束し役場へ連行した。その後、役場には3人を解放せよと若者を中心に数十人が集まった。そして、彼らも拘束されたという。サルキの家族は彼女を含め3人が拘束された。
現在、彼らの内ほとんどはディル県の拘置所に収監され、毎日尋問を受け、酷い拷問を受けているとも伝えられる。
11月3日から村には大勢の軍隊が駐留し、住民たちは家の外にも出ることができない状態という。
その他、去年作家グドゥップの焼身に関わったとして1年の刑を受けていたディル県ダタン郷のゾム・ラガは今年10月に刑期を終了していたが、最近のディルの状況の煽りを受けさらに1年刑期が延ばされたという。
さらに、ディル県チャクツェ郷第5村のクンチョク・ジンバが20日ほど前に拘束され、以後行方不明。同じくチャクツェ郷ゴンマド村のダルゲも10日前に拘束され行方不明という。
参照:11月7日付けRFAチベット語版
同中国語版
11月7日付けTibet Timesチベット語版
11月7日付けTibet Express チベット語版
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)