チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年11月7日
中国公式ウェブサイトの中にチベット国歌が! 事故か故意か?
チベット自治区トップの陳全国が11月1日に強い口調で「海外の敵対組織とダライ14世一味たちの姿や声が一切見聞きできないようにせよ」という指示を発表したということは前回詳しく伝えた。しかし、そのほんの数日前に自治区党宣伝部副部長メン・シャオ・リンの写真付きで政府メディアが大々的に宣伝し、新しくリリースされた「中国西蔵之声」という総合ニュースサイトの中に、なんと亡命チベット社会で歌われる「チベット国歌」が流れていたのだ。
この驚きのニュースを11月6日に伝えたVOAのサイトに行けば、これを実際聞くことができる(英語版はこちら)。歌は小さな子供たちが可愛い声で歌っている。漢人にチベット旅行を促す意図で編集されたと思われる映像とともに流されるが、歌自体は亡命側のものと思われる。
http://www.vtibet.comというサイトに行った後、>チベット語>携帯ダウンロードと進むとこの歌が冒頭で流れる。もっとも、VOAが報道した6日時点ではまだこの歌が聞けたが、翌日にはもう他の歌に変わっていた。
1959年に亡命して後、亡命側で作られたこの「チベット国歌」はもちろんチベット内では50年以上前から禁止され続けている。最近では携帯に当局が反体制的と判断した歌が入っているだけで逮捕され、刑期を受けたという例が沢山ある。そこで、これを聞いて、これを「チベット国歌」だと認識できたチベット人たちは非常に驚き、当局の意図を疑ったという。
もっとも、この歌がこれをダウンロードした者を逮捕するための罠として流されたのか、担当者が「チベット国歌」と知らずに偶然選んでしまったのかは不明のままである。
以下にダライ・ラマ法王日本代表部事務所のサイトに載っている「チベット国歌」の日本語訳を付記する。歌詞の内容は最後の一節中の中国共産党との闘いを暗示する「邪悪な暗闇との戦いに勝利しますように 」という言葉以外は見方によれば、知らない人にはまったく国歌とは認識できないかも知れないとも思った。いや、これさえも、背景を知らない人には込められた隠喩は分からないかも知れないのだが。
サイトに流された歌ではこの最後の一節が歌われる前にフェードアウトしている。
輪廻・涅槃における平和と幸福への,あらゆる願いの宝蔵にして
願いを意のままに叶えることができる,宝石の如き仏陀の
教えの光明を輝かせようそして,仏教と衆生の持宝たる大地を育み,守護する御法神よ
汝の徳の高い偉業の大海が広がり
金剛のように固く,慈悲をもって全てのものをお守りください百の歓喜を備えた天授の法が,我々の頭上に留まり
四徳の力が増大し
チベットの三区全土が,幸福で円満な時代で満たされ,
政教が盛行しますように仏陀の教えが十方に広がることによって
世界中の全ての人々が平安を享受できますようにそして,チベットの仏教と衆生の吉兆なる陽光と
十万に広がる吉兆なる光明の輝きが
邪悪な暗闇との戦いに勝利しますように
追加:youtubeにアップされた問題になっている「チベット国歌」の部分。
追加:うらるんたさんの補足情報
ウーセルさんによればこれは初めてではなかった。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)