チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2013年11月3日

ウーセル・ブログ <チャムド:「採掘を妨害するなら、僧院を閉鎖し、村人を逮捕する」>

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ウーセルさんは6月24日のブログで、チベット自治区チャムド地区の例を上げ、中国当局が如何にチベット人の意志と権利を無視した環境破壊を行っているかを報告する。その他、宗教自由の否定、経済活動規制の実体も報告されている。

原文:昌都:“如果阻拦开矿,寺院关闭,村民要抓”
翻訳:@yuntaitaiさん

◎チャムド:「採掘を妨害するなら、僧院を閉鎖し、村人を逮捕する」

ウーセル1

2007に撮影したチャムドの玉竜銅鉱

ウーセル2

現在の玉竜銅鉱(写真はネットから)

現地住民からの報告によると、チャムド地区はあらゆる団体の職員・労働者、小中高生、学生、退職者のコルラや巡礼を禁じた。宗教的な祭日になると、管理は更に厳しくなる。少し前のサカダワ(チベット仏教でもっとも聖なる月。チベット暦の4月)では、当局は事前に会議を開き、仏事を禁止する通知を出した。小学生は学校と教師から「僧院へお参りに行ってはいけない、スンドゥ(高僧から加持を受けたひも。中国語:金剛縄)を身に着けてはいけない、さもなくば厳罰を受ける」と警告された。各学校のチベット語教育の水準は低く、チベット語で日記をきちんと書ける生徒はほとんどいない。

チャムド県カールプ鎮のある学校の校庭には、古代の高僧タントン・ギャルポの塑像が以前から立っていた。しかし、学校の規模が絶えず拡大したため、校舎が塑像のところまで広がってきた。チャムド地区委書記のノルブ・ドゥンドゥップは昨年、「共産党の学校はタントン・ギャルポとは関係がない」と述べ、ショベルカーを出して塑像を撤去し、川に捨てさせてしまった。地元の住民は皆、「文化大革命の再来だ。役人は紅衛兵よりもずっとひどい」とののしった。

チャムド地区もラサと同様に、大々的な土木工事で「都市建設」を進めている。今、1950年の「チャムド戦役」を記念する「解散広場」を整備しており、解放軍がチャムドを「解放」する姿を表現した彫刻もつくるという。

チャムド地区では鉱山開発と水力発電所建設が広がっており、非常に深刻だ。ジョンダ県チュニド郷の玉竜銅鉱は10年近く採掘を続けており、銅の埋蔵量は「中国で2番目」だと考えられている。(地区内で鉱山開発を手がける)大型の中央企業には中鑪鉱産資源有限公司などがある。

チベット日報の報道によると、2013年3月20日にチャムド地区で鉱業発展大会が開かれた。チベット自治区党委の常務委員で、チャムド地区委書記のノルブ・ドゥンドゥップは「チャムドはカンティセ―ニェンチェン・タンラ鉱床生成帯とバンゴン・ツォ―怒江鉱床生成帯、羌南―ゾゴン鉱床生成帯、羌北―チャムド鉱床生成帯に位置している。既に発見、探査した鉱石は53種、鉱床は714カ所ある」と指摘したという。だが、ノルブ・ドゥンドゥップがこの時に話した別の言葉を官製メディアは報道しなかった。「採掘を妨害するなら、僧院を閉鎖し、村人を逮捕する」

マルカム県のチベット人は長年にわたり、中凱公司の採鉱に反対してきた。聖山での採鉱という問題もあったが、より深刻なのは、鉱石を抽出する化学処理の廃液が川に流れ込んだことだ。毒で魚は全て死に、村人や牛、羊は奇病にかかった。マルカム県ツァンシュ郷では2005年から2009年にかけ、飲料水が原因で26人が病死し、牛や羊の計2442頭が死んだ。2009年4月には、ツァンシュ郷の若者500人がお経を掲げ、昼夜を問わず車道に横たわり、中凱公司が採掘を続けるのを阻止した。当局が軍警を派遣して抗議者を追い払おうとした時、2000人以上の老若男女が一斉に路上に横たわった。

チベット自治区の当時の主席ペマ・ティンレーは軍警の車両計27台に守られて採鉱現場に行き、抗議者に「水は全く汚染されていない。あなた方は事実を捏造して採鉱を阻止し、党中央の西部開発政策に逆らっている。この結果はとても重大だと分かっていますか?」と話した。その時、ある老人が1杯の水を差し出し、「あなたにこの水を飲む勇気があるのなら、私たちは争うのをやめます」と言った。ペマ・ティンレーは怒って水をひっくり返し、机をたたいて「お前たちは造反したいのか?」と脅した。村人は「ペマ・ティンレーをやっつけろ!命がけで聖山を守ろう」と叫んだ。ペマ・ティンレーは慌ただしく立ち去るしかなかった。

この数カ月後、中凱公司は採鉱を一時停止するよう迫られた。しかし、後になってまた採鉱を始め、環境汚染を引き起こし続けた。昨年8月には、現地の1000人近いチベット人が鉱区に集まって抗議し、軍警の発砲で鎮圧された。ニマというチベット人が銃弾を受けて死亡したほか、6人が負傷した。

ゾガン県ブルトック郷では昨年7月3日、採掘に抗議したとして、9人のチベット人が逮捕された。チャムド地区ダヤップ県では、山を爆破して採鉱したため、放牧用の通り道がふさがれ、広大な耕地が汚染された。牧畜や農業に従事する住民たちは何度も関係部門に採鉱停止を求めたが、誰も取り合わなかった。

カルマパ17世の故郷、チャムド県ラトック郷で今、金鉱を中心とした採掘計画が進んでいる。メンダ郷には鉛と亜鉛が埋まっており、同じように採掘計画がある。

チャムド地区は11県を管轄している。チベット日報の報道によると、地区内では2012年末の時点で、建設中のものも含めて水力発電所が計99カ所、太陽光発電所が89カ所あった。この数字は小水力発電の数を含んでいない。中国電建集団が設計、施工した重要なエネルギー略奪プロジェクト、果多水力発電所はチャムド県ツェルべ郷のザチュ上流にあり、チャムド地区で最大の水力発電所だ。ちょうどチャムドに行ってきた漢人学者は「大小の水力発電所がとてもたくさんある。水が濁り、環境がひどく破壊されている」と私に話した。

ウーセル3

チャムドの水力発電所(写真はネットから)

チャムドへの漢人移民はますます増えており、冬虫夏草の採集についても漢人が地盤を奪っている。冬虫夏草の取引を手がける漢人幹部も多い。チベット人は移動を制限されているため、冬虫夏草を採っても現地で売るしかない。よその土地から冬虫夏草を買いに来た漢人や回族の商人の示す低価格を受け入れざるを得ず、損害を被ってもなすすべがない。

2013年6月22日 (RFA特約評論)

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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