チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年10月15日
ディル:作家と元警官が連行される
当局の弾圧により緊張が続くチベット自治区ナクチュ地区ディル県で、若い作家と元警官である彼の友人が連行された。
10月11日の夜中1時頃、ディル県の警官数人がシャムチュ郷テンカル村に現れ、作家ツルティム・ギェルツェン(ཚུལ་ཁྲིམས་རྒྱལ་མཚན།27)の自宅に押し入り、彼を連行した。次の日の早朝には彼の友人であった元警官のユルギェル(26)も自宅から連行された。
先月28日に国旗掲揚に反対し拘束されたチベット人の解放を要求し、千人近いチベット人がハンストを行った時、彼ら2人は「分裂主義的活動を行い、社会の安定を乱す噂を広めた」とされたと言われているが、本当の逮捕理由は不明であり、彼らの行方も不明のままである。
連行前にツルティム・ギェルツェンの自宅に、警官が入り、彼の携帯電話、パソコン、書籍等を押収していたという。
ツルティム・ギェルツェンは筆名ショクディル(ཞོགས་དྲིལ། 朝の鐘)の下に辛辣なエッセイや詩をチベット語と中国語で書く作家として知られていた。2007年に『雪域悲歌 ཁ་བ་ལ་འཁྲེང་བའི་དུང་སེམས་ཀྱི་ཅོང་སྒྲ 』と『雪域運命 གངས་རིའི་ལས་དབང ་།』の2冊を出版し、高い評価を受けた。
ツルティムは故郷のシャムチュ郷で小学校を終えた後、2001年に僧侶となりカンゼ州ペユル僧院に入った。2009年、ペユル僧院を離れデルゲ県のシェチェン僧院、ゾクチェン僧院、ペユル県のヤチェン・ガル僧院、ンガバのキルティ僧院等を転々としながら様々な仏教の教えを学んだ。
2009年、ツルティムは還俗し、甘粛省蘭州にある西北民族大学に入学し中国語を学んだ。在学中に執筆活動を始め、2012年から文学雑誌『新世代 མི་རབས་གསར་པ།』を仲間のチベット人たちと創刊し、後にこの編集主幹となった。彼は中国語のブログも続け、エッセイ、詩、翻訳を発表していた。このブログは現在当局により閉鎖されている。
しかし、卒業を数ヶ月後に控えた2013年5月、突然彼は大学から追い出された。その原因は彼の政治的意見や著作であろうと思われている。彼は度々大学内で仲間の学生たちを集め討論集会を開いていた。テーマのいくつかは当局により「違法」と見なされるものであったという。
大学を追われ、6月には故郷のディルに帰り「新一代(新世代)賓館 མི་རབས་གསར་པའི་མགྲོན་ཁང་། 」というゲストハウスを始めた。ゲストハウスの仕事の合間に彼は地元のチベット人たちにチベット語と中国語を教えていたという。
ユルギェル
12日に連行されたユルギェルはツルティムの小学校時代からの友人であり、2005年から7年間公安局に勤務した。2012年、その仕事あまりに政治的なことに嫌気がさし、仕事を止め、商売をはじめた。地元の人の話しによれば、彼が公安局にいる間、地元のチベット人をたいそう助けたという。
参照:10月13日付けTibet Times チベット語版
10月13日付けRFA中国語版
10月14日付けTCHRDリリース
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)