チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年10月8日
ディル、部隊発砲による負傷者は60人との情報
ディルにおける部隊による発砲事件について、昨日はTibet Timesの報道を元に、被弾者2人と伝えたが、その後出されたRFA等の記事によれば、被弾者は名前が判明している者だけでも6人、負傷者の数は合わせて60人という。また、移動が規制され負傷者を病院に運び込むことができない状況とも言われている。
衝突の状況については、先の抗議デモの首謀者として逮捕されたドルジェ・ダクツェルの解放を求めるために役場の前に村人たちが集まった時という情報と、部隊がドルジェ・ダクツェルの自宅を捜査するためにやって来た時という情報の2通りがある。どちらも、部隊が集まった群衆に向かって催涙弾と実弾を発射したというのはおなじである。
その他、Tibet Expressによれば、同じくディルで9月29日に拘束された40人の内、部隊の暴行により重体となったツェリン・ギェルツェン(25)は10月5日になるまで病院に運び込むことが禁止されていたという。彼は5日になりやっとラサの病院に運ばれたが、重体という。チベット人たちは「暴行を加えておいて、その上負傷者を病院に運ばせないというのは、人権蹂躙でひど過ぎる」と話しているという。また、「人民病院の医者は病名や容態を尋ねても答えないし、真剣に治療しているようにはまったく見受けられない」ともいう。
29日に拘束された40人には48時間の間に食事がまったく与えられなかっただけでなく、一滴の水も与えられなかったという。
その他、ディルでは拘束と暴行による負傷者が大勢でているという断片的な情報もあるが、厳しい情報封鎖野中で詳しい情報が伝わらない状況が続いている。
中国政府の「民衆に自国と自らの党を愛させるための教育」とは銃口による脅しにより「愛しています」と紙にサインさせ、国旗を掲揚させるとこである。言わばサド的「強姦」に等しい。
チベット人の民家や僧院の屋根の上に真っ赤な中国国旗がはためくシーンを写真やビデオに納め、「チベットの民衆は、私たちの働きにより、こんなにも祖国を愛し、忠誠を示しています」と中央政府に示す。それを見て「よくやった、昇進させよう」と中央政府は答える。戦争により敵地を征服するやり方とまったく同じである。侵略後60年経った今も、こんなやり方しか知らないのだ。相手であるチベット人はまったくの丸腰であるのにだ。
また、今回のディル弾圧は大量の役人と部隊を投入した大作戦だ。役人と部隊合わせて3万人近いと言えばディルの街の人口を越えているかもしれない。抵抗運動も計算済みであり、それは当局に取ってはより厳しい弾圧の口実になり好都合である。予算も増えるし、余分な3万人の食料その他を供給する仕事により地元中国人コミュニティーは潤うのだ。すべては上の役人や軍人が潤うために同じ人とは認識されていないチベット人をだしに演出された作戦である。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)