チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年9月5日
チベットを訪問したオーストラリア人記者が中国当局発表の記事は真っ赤な嘘と
8月20日から25日までオーストラリアの記者3人が奇跡的にチベット訪問を許可された。もちろん、それはすべて当局がお膳立てしたスケジュールに従わされたものであった。そして、中国政府系新聞である中国日報(China Daily)と中国西蔵之声等で彼らの訪問に関する記事が発表された。
「オーストラリアの記者たちはチベットの発展を賞賛した」と題されたその記事には、彼らがチベット自治区副主席姜杰任と会談した時の様子が写真と共に紹介され、その中にはThe Australian 紙のRowan Callick記者が話したとして「私はチベットのほんの一部しか訪問しなかったが、チベットが達成したものは本当に素晴らしいものだと確信した。例えば、その電力、交通、観光、、、」、さらに「チベットの南のニンティの田舎を訪問した時には、地元の人々が享受している素晴らしい生活に驚いた。彼らの家は本当に美しかった」と書かれていた。
彼らが北京に帰った後、Rowan Callick記者の下に多くの人々から「この記事を見たが、本当にあなたはあのような事を語ったのか?」という問い合わせが殺到したという。その中にはチベット亡命政府外務大臣であるデキ・チュヤン女史も含まれていた。彼は自分でその記事を見て唖然としたという。
彼は「まったく、自分が話していないことが完全に捏造されている」としてThe Australian 紙に発表している。
彼はチベットで中国メディアに対し「自分たちは副主席と会いたいとは思っていなかった。このような短い訪問ではチベットの真の姿を知る事はできない。チベットに対する見方は世界の見方と同じである」と答えたという。
また、彼は北京で開かれた全国人民大会議を取材したとき、中国メディアから「他の大多数を占める漢族の代表たちがビジネススーツとドレスを着ている中で、このようなカラフルな中国の55の少数民族を見て外国人としてどう思うか?」と聞かれた時、「彼らを動物園で飼っているようなものだ。あなたたちも昔の中国服を着たらどうかね?」と答えたが、この話しが放映されることはなかったという。
彼らオーストラリア記者団がチベットを訪問した後、中国側が発表した記事を見て、彼らを非難する記事などが亡命チベット系のメディアや団体から出ていたりしたが、彼の話しが本当であるとすれば、これは全くの濡れ衣であったようだ。中国は外人記者相手でも平気で都合のいい記事を捏造するという例である。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)