チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年8月31日
ナクチュ地区シャク・ロンポ僧院続報 党のテレビショー
チベット自治区ナクチュ地区ナクチュ県にあるシャク・ロンポ僧院(ཤག་རོང་པོ་དགོན་པ།)が、当局による度重なる弾圧の結果7月末に閉鎖に追い込まれたという話しはすでに報告した。そして最近、その続報が伝えられた。
現地からの報告によれば、この僧院閉鎖を悲しく思った現地チベット人約50人が僧院を警備する警察や軍隊、役人たちと衝突した。その結果、大勢の負傷者が出て、病院に運び込まれるものもいたという。
この衝突事件の後、彼らを罰しないよう求めるために、地区の代表者や僧院僧侶たち約40人が役所に陳情に行ったという。しかし、彼らは全員拘束され、20日間の厳しい「政治教育」を科せられた。
地域の監視体制も強化され、それまで2カ所であった軍の駐屯地が5カ所に増やされ、約2000人の軍隊が常駐しているという。軍は毎日、完全武装して、地区を巡回し、住民を脅し続けているという。さらに約400人の役人が監視のために村々に派遣されている。また、住民の移動は厳しく制限され、電話やネットも遮断されたままという。
こんな中8月23日には、チベット自治区副書記を始めとする共産党の高官がTVクルーを伴ってシャク・ロンポ僧院を訪れ、地区の住民は平和に暮らしており、僧院も政府の力で拡張される予定であるというプロバガンダショウが行われた。
このために、前日からラサのセラ僧院とデブン僧院の高僧が呼ばれ、強制的に呼び集められたシャク・ロンポ僧院の僧侶たちと共にその日テレビの前で党高官に歓迎の意を示すためにカタを捧げ、「自分たちは党のお陰で幸せに暮らしている」とテレビの前で答えるようにと命令された。しかし、僧侶たちはカタを持参せず、歓迎の意を示そうとはしなかったという。これを見た役人たちは、自分たちで用意したカタを僧侶たちに持たせ、もしも言う通りにしない場合は厳罰に処すると脅したという。
また、歓迎の意を示そうとしない現地の住民たちに対し、地区の党書記であるギェルツェン・ワンチュクは「テレビの前で、笑顔を見せ、高官たちに対し拍手しなければならない。そうしない場合は政治的に違法な行為と見なされる」と脅したという。
現地の人は「テレビの放送は全くの嘘だ」と強調した。
周辺のディル県やソク県でも警戒が強化され、住民への監視が厳しく行われているという。
参照:8月30日付けTibet Expressチベット語版
8月30日付けTibet Timesチベット語版
8月31日付けphayul
8月31日VOT放送分
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)