チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2013年8月30日

ダラムサラ:ダライ・ラマ法王ティーチング 8月25日~27日

Pocket

_DSC0441遅ればせながら、今月25日から27日までの3日間、ダラムサラ・ツクラカンでダライ・ラマ法王が行われたティーチングについて、写真とともに報告する。

今回のティーチングは韓国人グループのリクエストによるもの。もっとも韓国人は250人ほどとあまり多くはなかった。その他お裾分けで参加した日本人を含む外国人、インド人、チベット人の数は約5000人。

7月初めにブッダガヤで爆弾テロ事件が発生し、インド内で仏教徒や仏教施設がイスラム過激派の標的とされた。インド情報局が入手した情報によれば、犯人たちは「ブッダガヤの次はダラムサラだ」と明言したのだそうだ。というわけで、ダラムサラのツクラカンや法王パレス周辺の警備は俄然強化され、今では法王がお出ましになっていないときでも、ツクラカンにはカメラとモバイルが持ち込めないということになっている。

今回のティーチングでも、これまで各国語通訳を聞くために各自が用意し携帯していたFMラジオの持ち込みが禁止された。代わりに日本人等には法王庁が用意したFMラジオが渡された。メディアに対するチェックも強化され、これまでOKだった携帯電話が禁止され、チェックもパレスの前にある特別室で行われた。

8今回のティーチングのテキストはゲルク派創始者であるジェ・ツォンカパ(1357~1419)の『菩提道次第集義(ལམ་རིམ་བསྡུས་དོན།)』。アティーシャの『菩提道灯論』に範をとり著されたラムリン(菩提道次第)シリーズの1つであり、非常に簡潔に悟りへの階梯がまとめて説かれている。

テキストの流れを要約すれば、まず最初に仏教の教祖である釈迦牟尼仏陀に礼拝し、ついで文殊菩薩、ナーガルジュナ、アサンガ、アティーシャ、全ての師の順番に礼拝の偈が捧げられる。次いで、師に付く事の大事さ、宝の如くに稀で貴重な人生を無駄にせず意義あることに努力すべき事、来世以降も修行のために最適な人間という生を得るために帰依の心を起こし、悪行を避け善行に努めるべき事(下士の行)。

_DSC0473次に輪廻に生まれ続けること自体の苦しみを認識し、出離の心を起こし、輪廻の源を断ち切る方法を学ぶ事(中士の行)。

次に全ての有情の苦しみを取り除くために仏陀の位を求めるという大いなる志を起こし(発菩提心)、菩薩戒を受け、菩薩の行である六波羅蜜行を学ぶ。以下、六波羅蜜行である布施、持戒、忍辱、精進、禅定、智慧の各行について説かれる。

次に「心を一点集中させる禅定だけでは輪廻の源を断ち切ることはできない。止の修行を離れた智慧で如何に分析しても煩悩を滅することはできない。真如を見極める智慧が揺るがぬ止の馬に乗ると極端論から離れた中道の論理という鋭い武器により極端論を支えるすべての土台を破壊することができる。」として「止観双運」の重要性を説き、

26_030さらに、「瞑想中の虚空のような空と、瞑想時以外の幻のような空の2つに瞑想し、方便と智慧を結び合わせることにより、菩薩の行いを完成させ、賞賛を受けるものとなる。このように理解して、恵まれたものたちは(方便か智慧の)片方だけの修行道に満足することはない。修行者である私も、このように修行した。解脱を求めるあなたもまた、このように修行すべきである。」として方便と智慧を鳥の両翼のように合わせ行じるべきことが説かれる。

最後にこのようにして顕教の教えを完成したものは次に密教の教えを実践すべき事が説かれ、回向により結ばれる。

8ダライ・ラマ法王は最初、いつものように仏教と他の宗教の違いを簡潔に説明し、仏教とは何かについて説かれた。次にテキストを順次解説され、3日目には菩薩戒を授けられ、同時に智慧の仏神である般若波羅蜜母の瞑想を伝授された。

この最後の部分のみ以下日本語にしてみる。

菩薩戒を授けられた後に法王:

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

菩提心を起こし、六波羅蜜の行についての説明を終えた。菩提への心を望むだけでなく、そのための行を全て学ぼうという意志を起こし、その決意を表すために菩薩戒を受けたことになる。菩薩戒を受けた者は根本戒18と副次戒46について知り、これを守らなければならない。もしも、すぐにこの菩薩戒を守るという勇気はないという場合には、菩提心を起こし、近い内にこの行を全うしようという意志を持ち、そのための能力を得ますようにと願うだけでもいいであろう。

8これから(般若波羅蜜母の)ゴムルン(瞑想口伝加持)というものを行う。ཨོཾ་སྭ་བྷཱ་ཝ་ཤུདྡྷཿསརྦ་དྷརྨཿསྭཱ་བྷཱ་ཝ་ཤུད་དྷོ྅་ཧཾ། (オーム・スンババシュダ・サルバダルマ・スンババシュッダ・ハム 全ての現象は空性にとけ込む)と唱え、あなた方弟子たちが般若波羅蜜母として現出する。この仏神の灌頂を受けたことのあるものは自身を般若波羅蜜母として観想することが許される。灌頂を受けたことのないものは般若波羅蜜母を自身の頭頂に観想する。

ཨོཾ་སྭ་བྷཱ་ཝ་ཤུདྡྷཿསརྦ་དྷརྨཿསྭཱ་བྷཱ་ཝ་ཤུད་དྷོ྅་ཧཾ། (オーム・スンババシュダ・サルバダルマ・スンババシュッダ・ハム)と唱え空に瞑想する。詳しいことは省くとして、私という存在は「我とは悪魔の心」と経に説かれるように、実体はない。「私>我」という存在を探し求めるとまったく見つける事ができない(人無我)。それだけではなく、「五蘊もまた空であると見よ」と(チベット版般若心経に)説かれているように、私と名付ける基体となっている五蘊もまた自性が空である(法無我)。自性(実体)として成立しないという真理は、究極の真理として全ての現象を覆うものである。分析しないときには定義とか(実)体ということも認められるが、その体をもとめ分析すると見つけ出すことができないということがわかる。全てが消えてしまう。心からその対象が消えてしまう。つまり正しい分析(正理智)により現れの実体を求めるならば、それは求められず、消えてしまうということになる。だから、これはなにかといえば、(現象は)何かに依って名付けられたものなのだという結論に至る。故に、何かに依らずに独立して存在する現象は何も無いのだ、ということが最終的に納得される。今、この理解に留まり、瞑想するように。

DSC_4832般若心経の中に「色即是空 空即是色」と言われるように、全ての法(現象)は空であるが故に原因に依って(現象として)生起(成立)することができるのだ。自体(自性)があるならば原因に依るということが不可能となり、生起することもないということになる。だから、「空即是色」と言われるのだ。「色即是空」というは、「色(物質的現象)」そのものが他に依って成立するものであるから「色」そのものが「空」であり、「自性」を欠くものなのだ。「色」という自性のないものの上にさらにそれが「空」であるという話しではなく、「色」そのものが自性として「空」であると言っているのだ。「空」であるが故に機能を果たすことができる。他に依ることができる。独立した存在であるなら他に依ることはありえない。だから「空即是色」なのだ。このような「色」と「色の上の空」という2つは属性は別といえる。1つは(正理により)分析する前の「色」であり(世俗諦)、もう1つは分析した後に明らかとなる「空」である(勝義諦)。この2つは体を1つとし、異なる属性を持つもの(1つのコインの裏表のようなもの)である。分析する前の属性と分析後に現れる属性である。

_DSC0618般若波羅蜜母。

このように無自性を理解する心そのものを、灌頂を受けているものは、蓮華と月輪の上に般若波羅蜜母の種子である白色のཨ(アー)字と観想し、その種子が四手黄色の般若波羅蜜母に変化したと見なす。灌頂を受けていないものの場合は、自身の無自性を一心に信じる心が、自身の頭頂にある蓮華の上のཨ(アー)字となったと観想し、それが四手黄色の般若波羅蜜母に変化したと見なす。

その般若波羅蜜母の心の中心に6つの車軸を持つ輪を観想し、その中心に白いཨ(アー)字を観想する。さらに、それぞれの車軸の上に右回りにཏདྱ་ཐཱ། (テアタ 即説呪曰)/ ག་ཏེ་(ガテ 羯諦)/ ག་ཏེ་(ガテ 羯諦)/པཱ་ར་ག་ཏེ་(パラガテ 波羅羯諦)/པཱ་ར་སཾ་ག་ཏེ་(パラサンガテ 波羅僧羯諦)/དྷི་སྭ་ཧཱ། (ボディーソーハー 菩提薩婆訶)という文字が順番に乗っていると観想する。

般若波羅蜜母の姿と化しているラマの心の中心にも同様の法輪があると見なし、(真言を唱える間に)そのラマの法輪から全ての現象に関する一般の智慧と特に空生を理解する智慧が白い光となって弟子たちの輪の中にとけ込むと観想する。般若波羅蜜母を頭頂に観想しているものはそこから多量の白い光が自身に滴り、自身にとけ込んで一般的智慧と特に空性を理解する智慧が生じていないものは生じ、生じているものは増すという特別の加持を得たと観想するように。

これからその真言を3度唱える。私の後に続いて唱えるように:テアタ・ガテ・ガテ・パラガテ・パラサンガテ・ボディーソーハー/テアタ・ガテ・ガテ・パラガテ・パラサンガテ・ボディーソーハー/テアタ・ガテ・ガテ・パラガテ・パラサンガテ・ボディーソーハー。

これで加持は終わった。ははは。ま、とにかく空について瞑想することは非常に大事だ。菩提心と空について日々考えることが大事だ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

26_009日本人グループ。

26_0131日目のティーチングが終わり、日本人グループに近づかれる法王。

DSC_4858日本人グループの最前列にいた人たちと握手される法王。それら日本人大喜び。

DSC_4837以下、その他ティーチング中の写真。

26_008

26_010

8

_DSC0541

_DSC0382_2

_DSC0566

DSC_4842

_DSC0589

_DSC0591

_DSC0581

_DSC0455

8

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

ちべろぐ

Archives

  • 2018年3月 (3)
  • 2017年12月 (2)
  • 2017年11月 (1)
  • 2017年7月 (2)
  • 2017年5月 (4)
  • 2017年4月 (1)
  • 2017年3月 (1)
  • 2016年12月 (2)
  • 2016年7月 (1)
  • 2016年6月 (1)
  • 2016年5月 (9)
  • 2016年3月 (1)
  • 2015年11月 (1)
  • 2015年10月 (2)
  • 2015年9月 (4)
  • 2015年8月 (2)
  • 2015年7月 (14)
  • 2015年6月 (2)
  • 2015年5月 (4)
  • 2015年4月 (5)
  • 2015年3月 (5)
  • 2015年2月 (2)
  • 2015年1月 (2)
  • 2014年12月 (12)
  • 2014年11月 (5)
  • 2014年10月 (10)
  • 2014年9月 (10)
  • 2014年8月 (3)
  • 2014年7月 (9)
  • 2014年6月 (11)
  • 2014年5月 (7)
  • 2014年4月 (21)
  • 2014年3月 (21)
  • 2014年2月 (18)
  • 2014年1月 (18)
  • 2013年12月 (20)
  • 2013年11月 (18)
  • 2013年10月 (26)
  • 2013年9月 (20)
  • 2013年8月 (17)
  • 2013年7月 (29)
  • 2013年6月 (29)
  • 2013年5月 (29)
  • 2013年4月 (29)
  • 2013年3月 (33)
  • 2013年2月 (30)
  • 2013年1月 (28)
  • 2012年12月 (37)
  • 2012年11月 (48)
  • 2012年10月 (32)
  • 2012年9月 (30)
  • 2012年8月 (38)
  • 2012年7月 (26)
  • 2012年6月 (27)
  • 2012年5月 (18)
  • 2012年4月 (28)
  • 2012年3月 (40)
  • 2012年2月 (35)
  • 2012年1月 (34)
  • 2011年12月 (24)
  • 2011年11月 (34)
  • 2011年10月 (32)
  • 2011年9月 (30)
  • 2011年8月 (31)
  • 2011年7月 (22)
  • 2011年6月 (28)
  • 2011年5月 (30)
  • 2011年4月 (27)
  • 2011年3月 (31)
  • 2011年2月 (29)
  • 2011年1月 (27)
  • 2010年12月 (26)
  • 2010年11月 (22)
  • 2010年10月 (37)
  • 2010年9月 (21)
  • 2010年8月 (23)
  • 2010年7月 (27)
  • 2010年6月 (24)
  • 2010年5月 (44)
  • 2010年4月 (34)
  • 2010年3月 (25)
  • 2010年2月 (5)
  • 2010年1月 (20)
  • 2009年12月 (25)
  • 2009年11月 (23)
  • 2009年10月 (35)
  • 2009年9月 (32)
  • 2009年8月 (26)
  • 2009年7月 (26)
  • 2009年6月 (19)
  • 2009年5月 (54)
  • 2009年4月 (52)
  • 2009年3月 (42)
  • 2009年2月 (14)
  • 2009年1月 (26)
  • 2008年12月 (33)
  • 2008年11月 (31)
  • 2008年10月 (25)
  • 2008年9月 (24)
  • 2008年8月 (24)
  • 2008年7月 (36)
  • 2008年6月 (59)
  • 2008年5月 (77)
  • 2008年4月 (59)
  • 2008年3月 (12)