チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2013年8月29日

ダライ・ラマ法王の夢

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217ダライ・ラマ法王は昨日、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア(キング牧師)が50年前の昨日ワシントンで行った有名な演説「私には夢がある」を記念する、NBCニュースの「夢の日」企画の一環としてダラムサラの自宅で自身の夢を語られた。

法王のメッセージビデオはここ

日本語拙訳は以下:

私にはいつも1つの夢がある。今世紀中に世界が1つの本当に幸せな家族になることだ。これを実現するためには「人間性は1つであるという認識*」を持つことが必要だ。これは教育により、より全体的、現実的な思考方法を学ぶことにより、可能であると確信する。教育と自覚により「人間性は1つであるという認識」を育てることができると思う。この時、暴力や戦争の基盤は消滅する。こうして、この世紀が平和と非暴力の世紀となりえるのだ。

*法王の英語では「Sense of oneness in humanity」。簡単に言えば「人間は一緒と知ること」。

king3キング牧師として知られるマーティン・ルーサー・キング・ジュニア(Martin Luther King, Jr.1929~1968)はアメリカの牧師であり、アメリカの黒人公民権運動の指導者として活躍した人である。

50年前の1963年8月28日に、25万人を動員したワシントン大行進においてリンカーン記念堂の前で、人種差別の撤廃と各人種の協和を説くために行った「I Have a Dream”(私には夢がある)」と後に題された演説は20世紀中に行われた最も強力な政治的演説の1つと見なされている。(演説の英語原文はここ。日本語訳はここ。)

彼を先頭に人種差別撤廃運動が盛り上がった結果、次の年の1964年には「公民権法」が制定され、建国以来200年近くの間、アメリカで施行しれてきた法の上における人種差別が終わることになった。この年、キング牧師はノーベル平和賞を受賞し、死後2004年には議会名誉黄金勲章を受賞している。

キング牧師が先導した運動の特徴は徹底した「非暴力主義」であった。これはガンディーに啓蒙され、牧師としての素養が加味されたものであった。

ノーベル平和賞とアメリカ議会の黄金勲章を受賞したという点、さらに「非暴力主義」という点でもキング牧師はダライ・ラマ法王との共通点が多いと言える。両者ともに権力に対し正当な権利を要求する闘いを非暴力で導く指導者である。敢えて違いを上げれば、キング牧師はガンディーのように自ら運動の先頭に立ち民衆を導いたが、ダライ・ラマ法王は今まで一度も具体的な運動の先頭に立たれたことがないということぐらいか。もっとも、今回の法王のメッセージからも解るように、法王の夢の中心はすでにチベットを飛び越えて、世界平和であるといえよう。仏教と中国が育てた世界平和のリーダーである。

キング牧師の運動は相手がアメリカということで、一定の成果を勝ち取ることができたが、ダライ・ラマ法王の場合は中国を相手に今のところ何の成果も得られていない。キング牧師の活躍により、アメリカの黒人が完全に人種差別から解放されたというわけではないが、それから40年以上経った後アメリカはオバマ大統領という黒人の大統領を生んだ。キング牧師の「私には夢がある」演説50周年を記念するイベントにオバマ大統領が出席したという日本語の記事も出ている。

BBCのリクエストに答えダライ・ラマ法王はキング牧師を讃えるビデオメッセージも発表されている。この日本語拙訳は以下:

私はいつもみんなに話している、「70億人の人間はみんな幸せな生活を求めている。そして全ての人間は幸せな生活を実現するための平等の権利を持っている」と。他人を虐めること、他人を搾取することを正当化できる基盤はない。

他の人々の幸せに対し真摯な思いやりを持つ人々には、遅かれ早かれ自然に発言すべき時がくるものだ。この偉大な人、マーチン・ルーサー・キング氏は、他人に対する配慮、特に虐げられた人々に対する思いやりと共に、ビジョンと勇気を持って、闘い続けたのだ。私は心から彼を賞賛する。

彼の闘い、権利を勝ち取るための闘いは完全に非暴力の手段によるものだった。彼はマハトマ・ガンジーの真の後継者であった。その精神は彼を賞賛する人々全てにより受け継がれるべきものだ。私たちには彼の精神を受け継ぐ責任がある。それは正義のための闘いであり、その方法は厳格に非暴力を守り、憎しみなく、怒りなく行われるべきものだ。彼は一度も白人に対する憎しみや怒りを表したことがない。彼らも人間なのだ。

また、現実的な意味でも、もし何かを成し遂げたいならば、実際、相手と共同しなければならないのだ。相互理解、相互尊重が欠かせない。それなしには目的を達成することはできない。だから、私のように彼を尊敬する人々は彼の精神について真剣に考え、その実践を試みるべきなのだ。

なおこのキング牧師演説50周年企画の一環としてダライ・ラマ法王だけでなく、パキスタンの勇敢な少女マララを始め世界中の人権に関わる有名人がそれぞれの夢を語っている。彼らの夢を知りたい人はここへ

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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