チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年8月3日
ナクチュの由緒ある僧院が当局の弾圧の結果 閉鎖に追い込まれる
チベット自治区ナクチュ地区ナクチュ県にあるシャク・ロンポ僧院(ཤག་རོང་པོ་དགོན།)は僧院を統括するラマの転生者を探していた。その際、転生者を巡りダライ・ラマ法王と連絡を取ったと当局に言い掛かりをつけられ、それ以来、様々な弾圧を受け、先月末ついに僧侶が1人もいない状態となり、閉鎖に追い込まれた。
2010年5月20日、故ラマ・ロンポ・チュゼ(བླ་མ་༧རོང་པོ་ཆོས་རྗེ།)の転生者を探していた僧院のダワというラマが、当局からダライ・ラマと連絡を取ったと言い掛かりをつけられ、連行された。その後、78歳のラマ・ダワには7年の刑が言い渡された。高齢のラマ・ダワは刑務所で健康を害し、ラサの病院に送られ、厳しい監視下で療養生活を続けているという。
その後、僧院では厳しい「愛国再教育」が続き、ダライ・ラマ法王とラマ・ダワを非難することが強要された。これを苦にして75歳の僧侶ガワン・ギャンツォは自殺した。さらに、僧院の管理を任されていた2人の僧侶も逮捕され、長期の刑を受けた。このような状況に耐えきれず、僧侶が次々僧院を離れて行った。
地元のチベット人たちは、自分たちの僧院の苦境を見るに耐えず、県政府に対し、何度も僧侶たちの解放を求める嘆願書を提出したが、政府は完全に無視し続けている。地元の役人にも訴え続けているが、これも無視されたことに怒り、地元の役人との言い合いや時に暴力沙汰も起っているという。
このシャク・ロンポ・ガンデン・タルギェ・リン僧院は、ダライ・ラマ5世の命を受けドゥプトップ・ロプサン・ティンレー(གྲུབ་ཐོབ་བློ་བཟང་འཕྲིན་ལས།)が創建した300年の伝統を持つ由緒あるゲルク派の僧院である。
常に当局が干渉することと、僧侶の数が減ったことにより、様々な行事や法要が行えない状態となった。そして、ついに7月30日に僧院は完全に閉鎖された。現在、僧院の回りには大勢の警察と部隊が配備されているという。
参照:8月2日付けRFAチベット語版http://www.rfa.org/tibetan/sargyur/monastery-in-nagchu-forced-to-shut-down-08022013095428.html
8月3日付けTibet Expressチベット語版http://www.tibetexpress.net/bo/home/2010-02-04-05-37-19/10925-2013-08-02-06-46-03
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)