チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年7月19日
ウーセル・ブログ「チャムド――五星紅旗があふれる僧院と郷村」
中国共産党はとにかくその真っ赤な五星紅旗をどこであろうと立てまくるのが大好きである。征服したぞという印を見たいのであろう。それは被征服者にとっては服従の印、屈辱の印である。
チベット人居住区の中でも特にチベット自治区はチベット人に対する規制管理が徹底していると言われている。北京在住のチベット人作家ツェリン・ウーセルは6月14日付けのブログで、チベット自治区チャムド地区を取り上げ、チベット人たちがどれほど厳しい規制管理の下に暮らしているかの実体を明らかにしている。それは、文革時代を凌ぐほどの、息苦しい状態である。
原文:http://woeser.middle-way.net/2013/06/blog-post_14.html
翻訳:@yuntaitaiさん
チベット自治区の1700以上の僧院(寺)には、駐寺工作組が駐在している。中国政府が派遣を計画したのは3000人だが、実際には7000人以上もいるという。同時に、チベット自治区の5400以上の行政村にも駐村工作組が派遣されている。チベットの官僚は「2万人以上の幹部が駐村する」とメディアに語った。この数字に駐寺工作組の人数が含まれているのかどうかは分からない。
チャムド地区の駐寺工作組は2011年末、チベット自治区の「9有」政策(中国の歴代指導者4人の肖像画と国旗、道路、水、電気、テレビ、映画、書店、新聞を僧院に普及させる政策)を貫徹するため、500近い僧院の仏殿と各僧坊の屋上に五星紅旗を高く掲げるよう求めた。駐村工作組も農牧民の自宅屋上に五星紅旗の掲揚を求めた。僧院の全ての仏殿と僧坊、農牧民の家庭では、中国共産党の指導者のポスターを飾り、カタをささげる必要がある。カタをささげなければ政治問題になる。農牧民の自宅に掲げる五星紅旗は有料で、品質に応じて1枚につき3元または6元を支払う。古くなった旗を取り替えるのも有料だが、今年は無料だ。駐寺工作組と駐村工作組はしばしば僧坊や農牧民の家を突然訪問し、検査を実施する。
今、チャムド地区の僧院や郷村で見かけるのは風にはためくタルチョではなく、真っ赤な五星紅旗だ。しかし奇妙なことに、中国政府やほかの漢人エリアの役人が視察に来ると、工作組は僧侶や民衆にしばらく赤い旗をしまっておくよう求める。旗は視察団が去った後、再び掲げなければならない。最近、四川省の文化部門の役人が名刹カルマ・ゴンパを見学した。仏殿や僧坊の国旗はあらかじめ取り外されていた。
今年3月、駐寺工作組と駐村工作組は家を1軒ずつ検査し、車やバイクのために僧俗が残していたガソリンとディーゼル油を没収した。もしガソリンなどを買う必要があれば、身分証を示して給油カードを作らなければならない。そうしなければガソリンスタンドで給油できない。もし四川省や青海省など、ほかのチベット・エリアのチベット人がガソリンを買いに来たら、絶対に給油させない。
同時に、ある文書に署名と捺印をするよう、子供を含む全てのチベット人に要求した。「焼身者を出した家庭では、公職についている者は除籍され、公職についていない者は全員逮捕される」「焼身者を出した村落では、最低生活保障などのあらゆる福利が取り消され、村人全員が拘束される」「焼身者を出した僧院は閉鎖される可能性がある。僧侶は審査を受ける可能性がある。焼身者のために法会を開いた僧院と僧侶は『殺人罪』の共犯として処理される可能性がある」という内容の文書だ。
昨年からチャムド地区の全僧尼はよそへ出かけることを禁止され、僧院にいるしかなくなった。もし用事があって出かけるなら、駐寺工作組は3日間だけ時間を与える。15日以内なら、所在地の郷の郷長と書記の許可が必要だ。1カ月以内なら、所在地の県の統一戦線工作部と国内安全保衛支隊などの許可が必要だ。これらの手続きはかなり難しい。期限内に戻って来ないのは政府への抵抗に等しく、厳罰に処せられる。聞くところでは、チャムド県では昨年、ラサに行けた僧侶は一人もおらず、今年ラサ入りの許可証を手に入れたのは4人だけだという。
ある僧院や村の人たちが別の僧院や村に行くなら、到着後に必ず駐寺工作組や駐村工作組に報告し、登記する必要がある。そうしなければ、見つかった時に追い出されるだけでなく、罰を受けなければならない。
もし、四川省や青海省など、他地域のチベット人がチャムドに行くなら、少なくとも6枚の証明書が求められる。身分証と僧侶証のほか、村や郷、派出所、公安局などが出す証明が必要だ。
チャムド県のあらゆる道路(空港へ向かう道路と観光路線を除く)にはチェック・ポストが設けられている。チャムドの県城から(訳注:チャムドの北方、青海省との境にある)メンダ(面達)郷までの170キロだけで、大きなチェック・ポストが三つ、小さなチェック・ポストが一つある。バイクは通過できない。このうち徳当チェック・ポストでは、現地の村人や僧院の車は200元を払わなければならない。このチェック・ポストの独自規定のはずだ。荷車もお金を払わなければいけないが、金額は分かっていない。チェック・ポストを通る全てのチベット人は一律に全身を調べられ、荷物と携帯電話も詳しく調べられる。もし携帯電話にダライ・ラマ法王の写真や禁止された歌を保存していたら、その場で拘束される可能性がある。
2013年6月2日 (初出:RFAチベット語>漢語放送)
写真はネットより。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)