チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2013年7月11日

中国は僧院の教師を許可制にし、反共産党的教師の一掃をはかる

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中国政府はチベット政策を緩和するどころか、ますます締め付けを厳しくしているという話しである。TCHRD(チベット人権民主センター)は7月5日付けのリリースで当局が去年の末にチベットの宗教教育を制限するために発表した法律について詳しい報告を行っている。

Meeting-of-Buddhist-Association-in-China-この法律(条例)は「チベット僧院の宗教的教師雇用基準」と題され、2012年11月25日に行われた中国仏教協会第8回理事会第2次常務理事会で承認され、12月3日に発表、施行されたものである。

これは、チベットの僧院と尼僧院における全ての教師を中国政府が完全にコントロールするための法律である。TCHRDはこの法律を「精神的指導者の姿をした政治的僧侶を任命するためのもの」と表現している。

「この新たな規則はチベットの僧院の教師をコントロールしようとするものであり、中国によるチベットにおける宗教の自由を縮小しようとする試みである」とTCHRDは述べ、この新しい規制は「僧院内で千年以上も続いてきた、若い世代に正しい教えを伝えるという伝統的な方法を壊すという点で、非常に害多大なものである」と続ける。

この法律はチベット自治区だけでなく、カム、アムドを含むチベット人居住区全域の僧院、尼僧院に適用される。

新しい法律によれば、「チベットの仏教僧院の教師は全員登録されねばならず(第2条)」、「中国共産党の指導を支持し、社会主義システム、愛国主義、規則、国民団結、宗教と社会の安定を支持するという基準を満たさなければならない(第4条の2)」とされる。

第5条によれば、「(僧院教師)候補者はまず、各僧院の管理委員会により推薦され、その後、郷レベルの中国仏教協会事務所により審査が行われ、次に県レベルの中国仏教協会事務所が審査、試験を行い、これにパスしなければならない」とされる。

「中国仏教協会」は1953年に仏教を共産党の指導下に置くために設置され、仏教徒の活動を制限し、僧院をコントロールするための組織である。

許可を受けた教師は5年ごとにこれを更新されねばならず、その時にはまた最初から同じプロセスを経ねばならないとされる。

宗教的指導者の義務は「国家の政策と規則を支えるように信者を導き、注意深く国家統一と民族団結、社会安定を守り、分裂主義に反対せねばならない(第11条の4)」とされる。

130709115647CU2013年6月4日、チベット自治区ロカ県ネタン郷ダルゲリン僧院内に、地区の各僧院代表者を集め開かれた「愛国再教育」。

第4条の「罰則」という項には「宗教的指導者が雇用規則を破り、その義務を果たさなかった場合には、口頭の訓戒(或は政治教育クラス)を受け、解雇され、宗教的指導者としての全ての権利と特権を剥奪される」と書かれている。

第15条にはどのような行為を行った時に即時解雇となるかが書かれている。その中には例えば「僧院の管理委員会の命令に背く。海外の組織又は個人のそそのかしに従い行動する。分裂主義的思想を広め、僧侶や尼僧、俗人を違法な行為に導き、民族団結と社会安定を破壊する行為に加わり、祖国中国を分裂させること」というのがある。

TCHRDはチベットにおける宗教的自由はこの数年増々制限強化されているという。特に政府が数年前から「共産党と政府に反対する、如何なる徴候も組織的、広範囲に抹殺せよというキャンペーン」を始めた後悪化の一途であるという。

「この政策により、正統に資格のある仏教教師の数は次第に減少し、チベット全域において、チベットの仏教文化と言語伝達の力が衰えるであろう」とTCHRDはコメントしている。

参照:7月5日付けTCHRDリリース http://www.tchrd.org/2013/07/china-implements-measures-to-appoint-political-monks-in-guise-of-spiritual-teachers/
7月9日付けphayul http://www.phayul.com/news/article.aspx?id=33713&article=Now+Beijing’s+approval+must+to+‘legally’+teach+Buddhism+in+Tibet

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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