チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2013年7月10日

共産党のチベット強硬政策に変更なし ダライと徹底的に戦え

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1044624_10200192701760126_558185351_n中国の宗教と少数民族問題を統括する兪正声がチベット人居住区を訪問し、ダライ一味との闘いを強化せよと訓示。世界が中国政府のチベット政策緩和を話題にしている最中、これを明確に否定。タウで当局がダライ・ラマ法王誕生会に集まった人々に無差別発砲した2日後の発言である。

7月8日、中国指導部のナンバー4、全国政治協商会議主席である兪正声が焼身抗議が相次いだ甘粛省甘南チベット族自治州にある古刹ラプラン・タシキル僧院を訪れた。そこで地元の役人や宗教的指導者を集め会議を開き、その席上、ダライの分裂主義的活動は国家の利益と仏教的伝統に反すると語った。

9日付け新華社によれば兪は「チベット地域における国民の連帯と安定の促進のために、我々は断固たる態度でダライ一味との闘いを強化せねばならない」と語った。さらに、「仏教指導者は全ての分裂主義的活動と共産党の指導を損なうような活動に反対せねばならない」と続けた。

1012355_10200192698280039_1879391533_n兪はダライが共産党との関係を改善したいならば「チベットは古代から中国の一部であったと公に認め、チベット独立のための活動を捨てるべきである」と述べ、さらにダライ・ラマ法王が求める「中道路線」については「ダライの『高度な自治』を『大チベット』全体に求めるという所謂『中道』は、中国憲法と、民族自治に関する国家システムに完全に反するものである」と断定した。

また、兪はチベットの全ての問題を解決する鍵は経済的「発展」であるとして、「民衆の生活を向上させチベット地区で治安維持と繁栄を確保せよ」といい、問題は金で解決できるという考えしか持たず、問題の本質は人権と文化抑圧であるとは全く考えていないことを明らかにした。

さらに、彼は教育課程の中で漢語教育を強化することも勧めた。その理由はチベット人に求職の機会を増やすためだという。

チベット亡命政府は中国との対話のために用意した「中道路線」を説明する「メモランダム」の中で、これら全ての要求は「中国憲法の範囲内で認められているものばかりだ」ということを強調した。これを読む限りにおいては、確かに誰しもこの亡命政府の主張に納得するであろう。しかし、中国に取ってはそうでないのである。中国共産党の言う憲法とは共産党の法律であって、国の憲法のことであったためしは無い。

ダライ・ラマ法王が何度「独立」を求めない「中道」を連呼しても、これを口先だけで信じられないという態度も変わらない。今回はさらに、対話したいなら、「古代からチベットは中国の一部であったと認めろ」と言って来た。歴史的事実を脅しによりゆがめさせることも共産党の得意技である。

中国で新指導部が選出された後、兪正声がチベットを訪問するのはこれで2度目である。彼は今年1月初めにもカンゼ州ダルツェンドを訪問し、今回と同様の発言を行っている。詳しくは>http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51775945.html

デモを行ったわけでもない、単なる誕生祝賀会に集まった人々に発砲したというタウの一件を見ても分かるように、中国共産党のチベット人を力で押さえ込もうという態度には何も変化がないと思われる。

チベット人の宗教、文化、言語を圧迫し、漢民族移民政策と、経済格差をもってチベット社会全体を弱体化させることにより、問題をなし崩しにしようとする態度である。しかし、これはチベット人の反発を強めさせ、民族的抵抗文化を生むばかりで、この先増々問題は大きくなるばかりと思われる。もっとも、これが中国共産党の狙いであるということがもっと大きな問題である。武力で押さえる自信がある限り、この独裁国家が悪しき政策を変更することはあり得ないかも知れない。

参照:7月9日付け新華社 http://news.xinhuanet.com/politics/2013-07/09/c_116466690.htm

7月10日付けTibet Net上で亡命政府は早速「亡命政府の提案する中道路線は完全に中国憲法に則った要求である」という趣旨の反論を載せている。>http://tibet.net/2013/07/10/cta-refutes-unconstitutional-remarks-by-yu/

7月9日付けRFAチベット語版http://www.rfa.org/tibetan/sargyur/china-vows-to-step-up-fight-against-dalai-lama-07092013161748.html
同中国語版 http://www.rfa.org/mandarin/yataibaodao/shaoshuminzu/dz-07092013143536.html
7月9日付けVOT中国語版 http://www.vot.org/cn/俞正声:对达赖喇嘛的政治立场不会改变/
7月9日付けAP http://www.bigstory.ap.org/article/no-altering-hardline-dalai-lama-china-official
7月9日付けロイター http://www.guardian.co.uk/world/2013/jul/09/china-dalai-lama-tibetan-leader
7月10日付けphayul http://www.phayul.com/news/article.aspx?id=33714&article=China+renews+calls+for+‘absolute+fight’+against+the+Dalai+Lama

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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