チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2013年7月9日

ブッダガヤ爆弾テロ事件 日本の大仏とチベットの僧院も狙われた

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26f2b92b仏陀が悟りを開いた地として、全世界の仏教徒の第一の聖地とされるインドのブッダガヤで、7月7日の早朝から連続的に10カ所で爆弾が破裂するという事件があった。インド警察はこれをテロと断定し、捜査を始めている。インド内で仏教施設がテロの標的となったのはこれが初めてであり、チベット人初めインド内の仏教徒に衝撃が走っている。

13070811021892菩提樹傍の爆発現場。

最初の爆発は、ユネスコの世界遺産にも登録されている有名なマハーボディー大塔傍にある、その下で仏陀が悟りを開いたとされる菩提樹の近くで起った。爆発は早朝5時半頃ごろであり、付近に人は少なく人的被害は少なかった。その後、この大塔付近数カ所で爆発があり、大塔からはかなり離れた場所にある、通称カルマパ僧院内と日本が建てた大仏の近くでも爆発が起った。現在の所、合計13カ所に爆弾が仕掛けられ、その内10カ所で爆発が起ったという。

ただ、爆発の程度は何れも大きくなく、爆発により負傷したのはビルマ人僧侶とチベット人僧侶の2人だけという。

インド警察は大塔内に設置されていた監視カメラの映像から数人の容疑者を割り出し、行方を追っている。容疑者の内の1人が拘束されたという情報もあるが、まだ犯人グループの特定には至っていない。しかし、インド情報部は犯人はインド・ムジャヒディンと呼ばれるイスラム過激派グループではないかと推測している。

ビルマでイスラム教徒であるロヒンジャ族を仏教徒が弾圧しているとイスラム教徒たちは断定している。隣のバングラデシュでは仏教寺院がイスラム教徒に焼き討ちされるという事件も起っている。今回のブッダガヤの爆弾事件も、このような周辺国におけるイスラム教徒と仏教徒の対立が波及したのではないかと推測される。

ce6ea951爆発があったテルガル僧院。本堂奥(写真左手奥)の教室棟で爆発。

今回、大塔付近以外に通称カルマパ僧院と呼ばれるカルマ・カギュ派のミンギュル・リンポチェが建てたテルガル僧院と日本の大仏が狙われている。カルマパ僧院は私が設計に関わった僧院でもあり、特に気になるところである。報告によれば、本堂裏にある教室の入り口付近で早朝5時40分頃に爆発があったという。入り口のドアや窓が壊れたが、人的被害は無かった。その後の捜査により、他2カ所で爆発物が発見されている。

130708021731CSテルガル僧院爆発現場。

20120527_2443449爆発があったブッダガヤ日本大仏。

ブッダガヤには日本仏教系の寺院が3つあるが、今回狙われたのは、その内の1つ、法華経系新興宗教の1つである大乗教が建てた数十メートルの高さがある日本式大仏である。爆弾は2つ、1つは台座傍の地面、もう1つは大仏の身体の近くに置かれており、その内地面に置かれていたものが爆発したという。大仏に被害はなく、人的被害もなかった。

この爆弾事件を受け、ギャワ・カルマパはすぐに声明を発表した。その中でカルマパは「平静を保ち、暴力的反応を慎むように」と要請し、このような「無意味な攻撃」に対する最上の反応は「仏陀の教えである愛とアヒンサ(非暴力)を堅持することである」と述べている。

ダライ・ラマ法王もこの事件についてメディアから質問を受け、「非常に悲しい攻撃」であるが、「これは数少ない人々の行動であり、大袈裟に反応しない方がいい」とコメントされた。

チベット亡命政府の保安省はこの事件を受け、ダライ・ラマ法王の警備を強化すると発表している。

日本関係の施設が狙われたことについて、ツイッターをやっておられるブッダガヤの他の日本系寺院である仏心寺の清水住職にツイッター上でコメントを伺った。清水住職は「大変悲しいと共に、衝撃を受けました。日本仏教の施設も狙われるということは、日本仏教も狙われる危険があるという現実を知っておかないといけない。決して他人事じゃなく、僕達も今起こっている世界の仏教問題にもっと関心の目を向けないとと感じました。仏心寺、日本寺ともに無事です。本当に悲しいです。負傷した二人の僧侶の回復を願うと共に、平穏なブッダガヤに戻ること、またテロがない平和な世界になるよう祈ります。」と答えられている。

ブッダガヤには各国の仏教寺院があり、その数は55に上るという。今回なぜ、その内のチベットの僧院と日本の大仏が狙われたのか? 何か特別の意図があるのか? それとも単に目立つところを狙ったのか? ロヒンギャ問題が発端であるなら、ビルマ寺を何故狙わなかったのか? と疑問は色々湧いて来る。

選挙を控えるインドではこのテロを政治問題化し、野党のヒンドゥー至上主義BJP(ジャナタ党、インド人民党)が与党である国民会議派を攻撃する材料にされている。このことから、裏にはBJPがいるという陰謀説まで飛び交っている。インドではこのところ、イスラム系と共産毛沢東系のテロが増加している。

参照:7月8日付けTibet Timesチベット語版 http://www.tibettimes.net/news.php?showfooter=1&id=7877
7月8日付けphayul http://www.phayul.com/news/article.aspx?id=33705&article=Upholding+Buddha’s+teachings+on+ahimsa+best+response+to+attacks%3a+Karmapa+Rinpoche
その他、NDTV記事 http://www.ndtv.com/topic/bodh-gaya

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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