チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年7月8日
タウで部隊がダライ・ラマ誕生会に集まった人々に無差別発砲
タウで法王の誕生日を祝うため、丘の上に集まったチベット人たち。このままなら、のどかで楽しそうなピクニック。
ダライ・ラマ法王の写真が許可されたようだとか、習近平になりチベット政策によい変化が起るのではないか?等と噂されていたこの時期に、当局は平和的に法王の誕生日を祝おうとしていたチベット人たちに向かい発砲した。これは、当局がチベット政策を緩和する気など全く無いと宣言したようなものである。
すでに昨日のブログで事件の概要はおおかた報告したが、その後入った情報、写真とともにもう一度この発砲事件について報告する。ただ、当局は事件発生後にタウの通信網を遮断したので状況や被弾者の氏名等については未だ一致しない情報もある。
ダライ・ラマ法王誕生日である7月6日の早朝、カム、タウ(四川省カンゼチベット族自治州道孚県道孚)のニャンツォ僧院僧侶、ゲデン・チュリン尼僧院尼僧を中心に僧俗数百人が地元の聖なる丘であるシダク・マチェン・ボムラに向かった。丘の上に集まり、法王の写真を掲げ、その前に参加者たちがそれぞれカタ(祝福の白い布)を捧げるために列を作っていた。
この情報を得た当局は、すぐに警察車両4台、軍のトラック7台を現場に向かわせた。参加者たちが手に手にカタを持って並んでいたころには、部隊がその近くに列を組み威嚇を始めていた。
また、部隊は丘に登って来た車も途中で阻止した。2011年にタウで焼身抗議を行い死亡した尼僧パルデン・チュツォの弟である僧ジャンチュプ・ドルジェが運転する車も行く手を阻まれた。彼は強行突破を試みたが、部隊から石を投げられ、窓ガラスを割られたという。
カタを捧げるために列を組んでいる人々の向こうに部隊が整列しているのが見える。
部隊は集まったチベット人たちに対し、解散するよう命令した。しかし、チベット人たちはこれに従わず、平和的な祝賀会を行う事がなぜ許されないのかと答え、言い争いが始まった。そうこうするうちに、部隊はチベット人に向かって突然発砲したという。発砲しただけでなく、催涙弾を撃ち、チベット人たちに襲いかかり、めった打ちを始めた。拘束者もでたというが、その詳細は分かっていない。
部隊の無差別発砲により少なくとも7人が被弾したと言われる。その内、氏名が分かっているのは焼身者パルデン・チュツォの弟、僧ジャンチュプ・ドルジェ、ニャンツォ僧院の戒律師ツェリン・ドゥンドゥップ、ダクチュン村のウゲン・タシ、ニャンツォ僧院の教師タシ・ソナム、タシ・ドゥンキャ、ドンパ・ネンダク、その他氏名不明の尼僧1人という。
この内、ウゲン・タシ(又はタシ・ギェルツェン)は頭に被弾し、タウの病院では治療できずダルツェンドの病院に急送されたという。
追記:頭は撃たれたチベット人はニャンツォ僧院僧侶タシ・ソナムという情報もある。その他、撃たれたチベット人の内、彼以外の2人も重体という。
追記2:ICTの報告によれば、頭を撃たれたのは2人で、2人ともニャンツォ僧院僧侶。僧ウゲン・タシと僧タシ・ソナムという。<写真>撃たれた頭を治療されているのは僧タシ・ソナムとも。/http://www.savetibet.org/tibetan-monks-shot-as-police-open-fire-on-tibetans-praying-on-dalai-lamas-birthday/
追記3:TCHRDは被弾した人の数は少なくとも9人と言う。Tibet Timesは写真と共に被弾した人は10人という。その内重傷の2人について、TCHRDとTibet Timesはタシ・ソナムはニャンツォ僧院の教師である僧侶、ウゲン・タシは俗人という。ウゲン・タシは少なくとも8カ所撃たれており、生存が危ぶまれている。
9日付けTCHRDhttp://www.tchrd.org/2013/07/tibetans-in-critical-condition-after-chinese-armed-police-shoot-into-crowd-celebrating-dalai-lamas-birthday/
9日付けTibet Times http://www.tibettimes.net/news.php?showfooter=1&id=7879
頭を撃たれ、治療を受けるウゲン・タシ(或は僧タシ・ソナム)。
事件後、タウの街では緊張が高まっており、ニャンツォ僧院付近には大勢の部隊が集結し、チベット人の移動を厳しく制限しているという。
タウではこれまでに3人が焼身抗議を行っている。ほぼ1ヶ月前の6月11日には、現在のところ最後の焼身者である尼僧ワンチェン・ドルマ(31)が焼身、死亡している。http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51792875.html
また、タウではこれまでにも、この法王誕生日には毎年、当局とチベット人の衝突が発生している。
昨日伝えたように、チベット内地では様々な地域で法王の誕生日を祝う集会が開かれている。ほとんどの地域においては、何の問題もなく無事に終了している。当局が介入しなければ、それで済むことである。
中国の総人口の内、わずか0.5%でしかないチベット人が、彼らの尊敬するラマの誕生日会を平和的に開くということに対し、なぜ中国政府はほっておけないのか? 草原で平和的に祝賀会を行う人々に発砲する必要がどこにあるのか? なにが面白くて、何の目的でそのような残忍なことをわざわざ行うのか?
もしも、この先ダライ・ラマ法王の写真が許可されるようになったとしても、それは決してチベット人の人権や幸せを思っての政策では決してなく、単に自分たちの利害を計算した結果であることは間違いないことである。
参照:7月7日付けRFAチベット語版 http://www.rfa.org/tibetan/sargyur/chinese-military-beat-tawo-tibetans-celebrating-dalai-lamas-birthday-07072013114304.html
7月7日付けTibet Timesチベット語版 http://www.tibettimes.net/news.php?showfooter=1&id=7873
7月7日付けTibet Express チベット語版 http://www.tibetexpress.net/bo/home/2010-02-04-05-37-19/10812-2013-07-07-09-23-58
7月8日付けphayul 英語 http://www.phayul.com/news/article.aspx?id=33700&article=Tibetan+monk+shot+in+the+head%2c+Others+severely+injured+for+the+Dalai+Lama’s+birthday+prayers
7月8日付けVOT中国語版 http://www.vot.org/cn/西藏各地藏人庆祝尊者寿辰遭军警镇压/
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)