チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2013年6月21日

ウーセルさん夫妻再び自宅軟禁 

Pocket

ウーセルさん六月__日ウーセルさんから送られて来た写真。窓の向こうに、アパートの前で見張るチンピラ風保安部監視要員が写っている。

中国当局のあくどい圧力にもめげず、隠されたチベットの現状を告発し続ける、チベット人作家ツェリン・ウーセルさんと夫である中国人作家王力雄さんが、19日より再び自宅軟禁の身となった。2人は6月4日の天安門事件の前後にも自宅軟禁されており、6月7日にやっと解放されたばかりであった。12日間の自由を与えられただけである。習近平体制に移行した後、ダライ・ラマ法王等は政治的締め付けが緩むのではないかと期待する意見を何度も発表されているが、現実的にはそのような徴候は何も見られないままである。

L1100323-1暇そうな監視要員(ウーセルブログより)。

ウーセルさんが20日付けのブログで明かしたところによれば、19日の午後、2人が車で外出していた時、突然7、8人の警官と国家保安職員に囲まれ、無理やり自宅まで送り返されたという。その後、アパートの外には4、5人の私服保安要員が見張り続け、エレベーターの前にも2人が張り付き、2人の外出を阻止すると共に、訪問者を監視しているという。彼女のツイッターによれば、映画監督の朱日坤が食べ物をもって見舞いに駆けつけてくれたが「階下で止められた。ロビーから20階までが警察だらけ」という。また「接触しようとした作家が軟禁された」とブログに書かれている。

9cdfe5aeラサ、パルコルの今(ウーセルブログより)。

今回彼らが軟禁された理由はウーセルさんによれば、ラサの再開発に関連したものである。ウーセルさんは5月初めにラサ旧市街の乱開発を憂いブログに「私たちのラサがもうすぐ壊されます!ラサを救ってください!」http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51789067.htmlという記事を発表した。この記事の反響は大きく世界中でラサの乱開発の中止を訴える署名活動がはじまった。また、5月終わりにはフランスのテレビ局が潜入取材に成功しラサの現状を伝える番組を流したhttp://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51790433.html

このままでは中国が演出する「ラサのチベット人たちは中国政府の庇護と援助の下で幸せな生活を享受している」というイメージが壊れ、現実が暴露される恐れがあると見た当局は、これを否定させることを目的に、中国に駐在する外国人記者を官製ツアーでラサに行かせ、視察させることにした。このツアーは来月6日から13日の予定という。また外交官のラサ視察も今月終わりに予定されている。

これに先立ち、すでに2人の記者とある外交官がウーセルさんに接触し、意見を聞いているという。またウーセルさんもこのツアーに合わせるが如きにラサへの帰郷を予定していた。これらの動きを知った当局はこれ以上ウーセルさんが記者たちと接触し当局に都合の悪い事実を明かしたり、さらにラサ入域を阻止するために自宅軟禁という不当な手段に出たものと思われる。ウーセルさんは、今回の自宅軟禁は少なくとも今月の25日まで、あるいはそれ以上続くであろうと予測している。

ラサへの記者団官製ツアーが組織されるのは2008年以来のことである。2008年の時には、ジョカンの僧侶たちがひどい仕打ちを覚悟で記者団の前に出てチベットの隠された弾圧の現実を暴露した。その時のビデオ(日本語)>http://www.youtube.com/watch?v=tUlAv3qD6HM

アムドのラプラン・タシキル僧院に記者団が入ったときも、命を掛けた僧侶たち数人がチベットの自由を訴える横断幕とともに記者の前に飛び出し、隠された現実を訴えた。その時のビデオ>https://www.youtube.com/watch?v=sNRuQ2-kPoI&feature=player_embedded

官製ツアーはすべて当局によりセットされ、厳しく監視されるツアーである。当局は都合のいい場所しか見せず、一般人への自由な接触は不可能である。また、その後発表される原稿も事前にチェックされる。このツアーにより本当の姿が明かされる可能性は限りなく少ないであろう。

軟禁状態下にあるウーセルさんにウーセルさんの親友である大阪在住の作家・翻訳家劉燕子さんが昨日電話連絡に成功した。その時の話をメールで伝えて頂いたので、以下それを紹介する。

「外国メディアはツアーでチベットに入れるけれど、私たちは再び軟禁」

 中国外交部がオーセルさんの主張する再開発の問題がないと主張するため、海外メディアをラサツアーに連れ出すそうです。他方、本日からオーセルさんご夫妻は再び軟禁状態です。外部とは一切接触を禁じられています。これは六四天安門事件二四周年で軟禁され、それが解除されてすぐのことです。

 習体制となってから、お二人への監視や締め付けはますます強められました。本日、六月二十日、七-八人の監視体制が敷かれています。先ほど携帯電話が通じました。ウンウンと盗聴といやがらせによる雑音が大きかったです。私は「しっかりと顔をパックしてもっと美しくあるようにしましょう。そしてお二人ゆっくりとお茶を家で楽しみましょう」と言いました(ちょうど数日前に保湿のパックと静岡のお茶を送りました)。彼女も電話で「そうね,发扬“抵抗的美学”」とユーモラスに答えました。

参照:6月20日付けウーセルブログ:http://woeser.middle-way.net/2013/06/blog-post_20.html
6月20日付けRFA英語版:http://www.rfa.org/english/news/tibet/arrest-06202013171541.html
6月20日付け共同>産経:http://sankei.jp.msn.com/world/news/130620/chn13062022410010-n1.htm

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

ちべろぐ

Archives

  • 2018年3月 (3)
  • 2017年12月 (2)
  • 2017年11月 (1)
  • 2017年7月 (2)
  • 2017年5月 (4)
  • 2017年4月 (1)
  • 2017年3月 (1)
  • 2016年12月 (2)
  • 2016年7月 (1)
  • 2016年6月 (1)
  • 2016年5月 (9)
  • 2016年3月 (1)
  • 2015年11月 (1)
  • 2015年10月 (2)
  • 2015年9月 (4)
  • 2015年8月 (2)
  • 2015年7月 (14)
  • 2015年6月 (2)
  • 2015年5月 (4)
  • 2015年4月 (5)
  • 2015年3月 (5)
  • 2015年2月 (2)
  • 2015年1月 (2)
  • 2014年12月 (12)
  • 2014年11月 (5)
  • 2014年10月 (10)
  • 2014年9月 (10)
  • 2014年8月 (3)
  • 2014年7月 (9)
  • 2014年6月 (11)
  • 2014年5月 (7)
  • 2014年4月 (21)
  • 2014年3月 (21)
  • 2014年2月 (18)
  • 2014年1月 (18)
  • 2013年12月 (20)
  • 2013年11月 (18)
  • 2013年10月 (26)
  • 2013年9月 (20)
  • 2013年8月 (17)
  • 2013年7月 (29)
  • 2013年6月 (29)
  • 2013年5月 (29)
  • 2013年4月 (29)
  • 2013年3月 (33)
  • 2013年2月 (30)
  • 2013年1月 (28)
  • 2012年12月 (37)
  • 2012年11月 (48)
  • 2012年10月 (32)
  • 2012年9月 (30)
  • 2012年8月 (38)
  • 2012年7月 (26)
  • 2012年6月 (27)
  • 2012年5月 (18)
  • 2012年4月 (28)
  • 2012年3月 (40)
  • 2012年2月 (35)
  • 2012年1月 (34)
  • 2011年12月 (24)
  • 2011年11月 (34)
  • 2011年10月 (32)
  • 2011年9月 (30)
  • 2011年8月 (31)
  • 2011年7月 (22)
  • 2011年6月 (28)
  • 2011年5月 (30)
  • 2011年4月 (27)
  • 2011年3月 (31)
  • 2011年2月 (29)
  • 2011年1月 (27)
  • 2010年12月 (26)
  • 2010年11月 (22)
  • 2010年10月 (37)
  • 2010年9月 (21)
  • 2010年8月 (23)
  • 2010年7月 (27)
  • 2010年6月 (24)
  • 2010年5月 (44)
  • 2010年4月 (34)
  • 2010年3月 (25)
  • 2010年2月 (5)
  • 2010年1月 (20)
  • 2009年12月 (25)
  • 2009年11月 (23)
  • 2009年10月 (35)
  • 2009年9月 (32)
  • 2009年8月 (26)
  • 2009年7月 (26)
  • 2009年6月 (19)
  • 2009年5月 (54)
  • 2009年4月 (52)
  • 2009年3月 (42)
  • 2009年2月 (14)
  • 2009年1月 (26)
  • 2008年12月 (33)
  • 2008年11月 (31)
  • 2008年10月 (25)
  • 2008年9月 (24)
  • 2008年8月 (24)
  • 2008年7月 (36)
  • 2008年6月 (59)
  • 2008年5月 (77)
  • 2008年4月 (59)
  • 2008年3月 (12)