チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2013年6月9日

中国がオーストリアに対しカンフーパンダを演じ 「パンダをとるかダライ・ラマをとるか?」と恫喝

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getimage中国政府が1年前にオーストリアの首相や外相がダライ・ラマ法王と会ったことを蒸し返し、ウィーンの動物園に貸し出している2頭のパンダを取り上げると脅したそうだ。

これを伝えたのはオーストリアのDie Presseという新聞という。ただ、これを元に書かれたらしい2つの記事が手元にあるが、これを見比べると事実関係に相違も見られる。

1つはウィーン在住のジャーナリストが書いた3日付日本語のブログ>http://blog.livedoor.jp/wien2006/archives/52034731.html もう1つは7日付けphayul>http://www.phayul.com/news/article.aspx?id=33572&article=China+play’s+kung+fu+panda+with+Austria である。
ネット上で元記事を探してみたが、見つかったのはドイツ語の短い記事>http://www.pressdisplay.com/pressdisplay/ja/viewer.aspx#だけであった。これを見ても相違点については明らかにできなかった。

以下、相違点も明らかにしながら何があったかを想像してみる。

まず、去年5月にダライ・ラマ法王がオーストリアを訪れた時、オーストリアの首相Werner Faymannと副首相兼外務大臣のMichael Spindeleggerが会談した。この会談について首相は「この会談は人権、非暴力、対話、弾圧反対を擁護する明白な政治的メッセージを含むものだ」と述べ、さらに「私は個人的にもダライ・ラマのような素晴らしい人に会ってみたいと思ったのだ」と語ったという。

相違点の1つはこの会談の前に中国政府がオーストリア政府に対し「ダライに会えば関係が悪化する。会うな」と脅したかどうかだ。ウィーン在住のジャーナリストさんは「当時、駐オーストリアの中国大使館から圧力はなかった。当方は『なぜ、中国は強く抗議しないか』というコラムを書いたほどだ」と書かれている。しかし、phayulによれば、Werner Faymann首相は、北京の「ダライ・ラマがオーストリアを訪問することは(北京と)ウィーンとの関係を危うくするものである」という警告をはねつけ、「オーストリアは人権擁護の立場をとる国である。ダライ・ラマと会うことは私が決定したことであり、このことの責任は私にのみある」と述べたということになっている。

そして、phayul によれば、会談の後、中国外務省の報道官洪磊(Hong Lei)は記者団に対し「オーストリアの行動は中国の内政に対する強い干渉であり、中国人民の感情を害し、『チベット独立勢力』に間違ったメッセージを送るものである」と述べた。(これは去年の話と思われる)

ウィーン在住の日本の方は「中国がオーストリア外務省を脅迫し、『ダライ・ラマ14世と会談したことは中国は一国という事実を無視するものであり、中国国民の心情を傷つけた。ダライ・ラマ14世は宗教という名でカムフラージュした分離主義者だ』として、『オーストリアは謝罪を文書で提示すべきだ』と要求してきたのだ」としている。(こちらは今回の話)

ウィーンの動物園に貸し出されているパンダのカップルは10年契約であり、契約は今年の5月にきれるという。しかし、動物園側は去年すでに「中国野生動物保護協会」から、されに契約を10年延長するという同意を得ていると発表している。

今回の事態を受け動物園のEveline Dunglはthe Austrian Times紙に対し、「我々はすでに移行期に関する覚え書きにサインを貰っているが、これが実行されるためには明らかに政治的問題が解決される必要があると思われる」と話したという。同紙によれば「中国の役人は見返りとして外交的に『2国間の良好な雰囲気』が得られたときに初めてサインする」と言っているそうだ。

そして、phayul によれば、中国はオーストリアに対し「政府が今度またダライ・ラマに会ったら。パンダを引き取る」と言ってることになっている。今回、引き取るというのではなく、「将来また会ったら」ということになる。

このように、2つの記事では事実関係に食い違いがあるが、大筋は一緒である。つまり、中国政府はオーストリア政府に対し、「パンダがほしけりゃダライ・ラマに会うな」「パンダをとるかダライ・ラマをとるか?」と恫喝しているのである。パンダとダライ・ラマを同列に扱い、脅迫のネタにするというのは非常識であり、滑稽でもある。パンダの主な生息地がチベットであることを考えれば二重に中国の政治感覚を疑うしかない。皮肉が効き過ぎてるとも言える。

phayulのほうにはこれに対しオーストリア政府がどんな反応を示したかは書かれていないが、ウィーンの日本人の方は「もちろん、オーストリアは中国側の要求を拒否した。『誰が誰と会うか、他国が強いることはできないし、そのような要求は受け入れられない』という返答だ。余りにも当然のことだ」と書かれている。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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