チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2013年6月8日

ウーセル・ブログ:「ダライ・ラマの転生が国内に生まれるよう努力する」とはどういう意味か?

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ダライ・ラマ法王は最近香港の「香港蔵漢友好協会」という団体から香港訪問の要請を受けた。もちろん、これまでに法王が香港を訪問されたことはなく、今回北京政府がこの訪問を許可するかどうかに注目が集まっていた。それと同時に、この団体の実体に対し疑問を提示する人もいた。また、あるチベット人は「法王やセンゲ首相が最近中国寄りとも思える発言を繰り返しているのは、この香港訪問と関係があるのではないか?」と憶測した。

結局、法王事務所は「要請があった今年9月はすでに予定が入っており、不可能である」としてこの要請を断っている。

ウーセルさんは6月5日付けのブログで、最近香港の雑誌「亜州週刊」に発表された中央党校教授へのインタビューをからめ、この香港訪問要請と法王の転生問題の関係を分析する文章を発表され、「香港に行くことは危険である」と述べられている。(4日時点では法王事務所が訪問要請を断ったというニュースは伝わっていなかった)

原文:http://woeser.middle-way.net/2013/06/blog-post_5.html
翻訳:@yuntaitaiさん

_香港の雑誌「亜州週刊」は靳薇教授のインタビュー記事「協議を再開し、チベット関連問題の解決を」を掲載した。

◎「ダライ・ラマの転生が国内に生まれるよう努力する」とはどういう意味か?

香港の雑誌「亜州週刊」(第27巻22期)が掲載した「中央党校科学社会主義教研部、靳薇教授インタビュー:協議を再開し、チベット関連問題の解決を」(紀碩鳴記者)は精読する価値のある文章だ。

中央党校教授の「ダライ・ラマの転生が国内に生まれるよう努力する」という言葉が最も重要だ。

1369905612800_051368D4130FEA9924A4A9B7AEEBD989靳薇教授

このほか、彼女は重大な秘密を漏らしている。「私たちは『金瓶掣籤』(きんべいせいせん=複数の候補者から転生者を選ぶくじ引き)によって転生霊童の国外での誕生を規制できるが、歴史上、トゥルクが自ら後継者を指名した例もある。『2人のパンチェン』のような不都合はできるだけ避けなければならない」。この中央党校教授はずいぶん軽率だ。土共が「金瓶掣籤」で「偽パンチェン」を決めた秘密をなぜ漏らしたのだろう?

「共産党は自信を強く持たなければいけない」と語るこの中央党校教授は、チベット人の焼身にとても冷酷な見方を取る。「焼身は持続し、勢いを増しており、ほとんど『集団ヒステリー』状態だ。伝染病になり、一つの運動になっている」という。

一方、彼女の最後の言葉は一石数鳥を意図している。「チベット関連問題は今の中国にとって非常に重要だ。もし新しい考え方を打ち出し、行き詰まりを打開できれば、社会の安定を促せるだけではなく、修復しがたい民族の傷ができるのを避け、国内のほかの少数民族にもプラスの影響を与えられる。同時に、台湾統一への助けにもなり、中国の国際的なイメージを高められる」

恐ろしい偶然がある。中央党校教授は「純粋に宗教的指導者としての立場で、ダライ・ラマに香港かアモイを訪問させる。将来的には、ダライ・ラマを香港に居留させることも考えてよい」と提言した。これとほぼ同時期の6月3日、「ボイス・オブ・チベット」(ノルウェーのラジオ局)は「香港の団体が宗教活動のためダライ・ラマを招請」と報じた。記事によると、「香港蔵漢友好協会はこのほど、『世界の平和、全国の和諧』の宗教活動を執り行ってもらうためにダライ・ラマを招請し、入境管理局に申請書を提出したと明らかにした」という。

なぜこれほど偶然が重なるのか!?全く尋常ではない!まさか本当にわなを用意しているのだろうか?この「香港の団体」にはどんなバックグラウンドがあるのか?

hk「香港蔵漢友好協会」設立者

報道によれば、法王を香港に招くのは、「香港蔵漢友好協会」設立者の某氏だ。香港のネット仲間はこの人物について、「詐欺師だと聞いている。親共産党という背景があるとも聞いた。一昨日、この人物の背後関係を質問してきた友人がいた。明日、彼の記者会見があるとも言っていた」とツイッターに書いた。

詐欺師と親共産党の背景はぴったり当てはまる。だが問題は、このような人物がなぜダライ・ラマ法王を香港に招けるのかということだ。これはあまりにも危険ではないか?

この「蔵漢友好協会」は、世界各地で発展を見せる孔子学院とよく似ている。背景は複雑で、スパイの影がうかがえる。

ツイッター仲間の情報によると、設立者の某氏は2009年には「人格尊厳保護協会」という団体の呼びかけ人をしていた。そのころ、香港の7月1日(返還記念日)デモを混乱させたとして、リンゴ日報に「ビクトリア公園で場所の取り合い=コースも同じ―奇妙な団体、7・1デモの混乱狙う?」と報道された。「ボイス・オブ・アメリカ」も当時、彼がビクトリア公園でデモの場所を奪い合ったと報じた。

この人物が今では「香港蔵漢友好協会」の設立者になっている。一昨年の初めにはダラムサラでダライ・ラマ法王に謁見し、並んで撮った写真を大きく引き伸ばし、あちこちでひけらかした。最近では仏の教えを広めるため、法王を香港に招請すると宣言し、「政府から文書で許可を得た」とまで称している。しかし、ツイッター仲間は「香港政府は11年、王丹(天安門事件の学生指導者)の入境を拒否した。もし今回ダライ・ラマ法王を入境させたら本当におかしい」と書いた。

ここには一体、どんな計画があるのだろう?

重要なカギになるのは、中央党校教授の恐るべきマジックだろう。香港訪問の提言は既に偶然がはっきり重なった(法王が行くかどうかは香港側の反応にもよるが、偶然の一致は起きた)。「ダライ・ラマの転生が国内で生まれるよう努力する」という提言も、まさか最終的に偶然が重なるのではないか?

ある局面が少しずつ動いていると感じるのはなぜだろう?どうやって「努力する」のだろう?中央党校教授の言う「私たち」とは誰のことなのか?

共産党が布石を打っているのだろうか?とても入念に、将来を見据え、大掛かりに布石を打っているのだろうか?ここにはさまざまな立場の人物が登場しているようだ。悪人と善人、甘い言葉にお涙頂戴まである。彼らは「協議再開」や香港での仏教行事をえさにする。共産党が250万元を投じてダライ・ラマ法王の生家(青海省海東地区平安県石灰窩郷紅崖村)を修繕したという最新の新華社ニュースもここに含まれる。共産党の目的は最終的に、「国内」への転生を法王に認めさせることではないか?まさに、「ダライ・ラマの転生が国内で生まれるよう努力する」という党校教授の言葉通りに。

しかし、ツイッター仲間が分析する通りだ。「香港訪問のためだけに払う代価がこれほどの譲歩だというのは、明らかに不合理だ。亡命政府が差し迫ってチベットへ戻りたがっていて、政治的に独立した地位と民主を断念すると認めていることを結び付けると、香港訪問は協議のカギの一つだろう」。もちろん法王が軽々しく受けるはずはないが、中央党校教授の言う「私たち」は必ず「努力」するだろう。なぜなら中国政府にとっては、14世であれ15世であれ、ダライ・ラマが国外にいるだけで「特殊な難局」になるからだ。そして、「『ダライ・ラマという難局』を『解消』するだけで、『小さな力で大きな成果を上げる』作用を起こせる」からだ。

中国語は本当に豊かだ。「高齢」で「転生問題が目の前に迫っている」という法王を対象に、「努力」しなければならず、「解消」しなければならない。こうした物言いは何を意味しているのか?

漢人のある独立知識分子はひどく心配しながら、私へのメールに書いた。「亜州週刊の最新記事2本は明らかに背景がある。1本目に書かれているのは、今チベット人が内部で分裂し、亡命政府には情勢を落ち着かせる術がないということ。2本目の記事には、転生霊童、香港へのダライ・ラマ法王招請など、全く気に入らない言葉がいくつか出てくる。香港への招請は法王の思いを見透かしている。法王は何度も(交友のあった共産党高官の)習仲勲を振り返って好感を示し、(習仲勲の息子で国家主席の)習近平に大きな期待を寄せていたからだ。もし美しい言葉で動かすのなら、法王は喜んで前へ進むだろう。だが、パンチェン・ラマ10世がシガツェで円寂した事情(毒殺されたと考えるチベット人が多い)を考えると、『危うきに近寄らず』という教訓を思い出す……」

そう、危うきに近寄らず!誰かが「ダライ・ラマの転生が国内に生まれるよう努力する」時にも、どうか法王がご無事でありますように、お変わりありませんように!

2013年6月4日 (RFA特約評論)

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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