チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年6月2日
大荒れのTYC総会が終了し、新執行部が選出された
昨日6月1日、6日間に渡りダラムサラで行われていたTYC(チベット青年会議)の第15回総会が終わり、新執行部が選出された。TYCは会員数約3万人と言われ、亡命社会最大のNGO、最大の独立派組織。現在の首相ロプサン・センゲを始め、亡命政府要人のほとんどはこの会の出身者である。
今回、会長に選ばれたのはこれまでアメリカ、ミネソタ支部の代表であったテンジン・ジクメ。前会長であったツェワン・リクジンもアメリカ在住であったが、今回も会長はアメリカ在住者となった。副会長はネパール、ポカラ出身のタムディン・シチュ。書記はこれまでダラムサラ支部の書記であったタシ・ラムサン。この3人が中心メンバーである。
その他7人の執行部員はハバプール支部のイシェ・テンジン、ポカラのニマ・チュンゾム(女性)、カトマンドゥのツェワン・ドルマ(女性)、デリーのテンジン・ワンチュク、ダージリンのタシ・ドゥンドゥップ、ダラムサラのテンジン・ツンドゥ、ダラムサラのガワン・ロプサン。任期は3年。
今回の総会は大荒れとなった。ことの始まりはTYCメンバーがダライ・ラマ法王の中道路線を批判したことである。それに対し、法王が「悲しく思う」とラダックで発言し、さらに最近アメリカツアー中、盛んにTYCの独立路線を批判する発言をされたからだった。独立を主張するTYCが法王の中道路線を批判することは今に始まったことではないのに、なぜここに来て法王が今までになく、強い口調で独立派を批難されたのかはなぞである。とにかく、目立った活動を行うTYCをおとなしくさせ、中国との話し合いを再開したいという思いからかもしれない。あるいは、このまま独立派の勢力拡大を許せば、法王亡き後、チベットが過激化するかもしれないということを不安視されたのかもしれない。
この法王の態度はTYCメンバーの間に動揺を引き起こし、今回、40以上の支部から130人ほどが参加したが、その内8つの支部のメンバー34人がTYCが主張する独立路線を変更するよう要求した。そして、これが否定された後、彼らは総会をボイコットし会場の外に出た。新会長等の選挙にも加わらなかった。8支部の内の多くは南インドの支部であったが、今後これらの支部が解散される可能性は高いであろう。
すこし、残念に思われるのは、総会内で路線を巡る討議が十分行われる事なく、路線変更を求めた側も単に「法王の怒りをかってしまった。法王に逆らうことはできない」という至高権威に屈した形の言動しか行っていないということである。
結論的には完全独立路線を踏襲し、チベットの独立と法王のチベット帰還を最終目的とすることとなり、これまでと何も変わらないものとなっている。ただ、活動のやり方については、(当分の間)よりおとなしいやり方に変更される可能性は高いであろう。
参照:6月1日付けTibet Times チベット語版http://www.tibettimes.net/news.php?showfooter=1&id=7741
6月1日付けRFAチベット語版http://www.rfa.org/tibetan/sargyur/tyc-new-executive-members-elected-06012013134445.html
6月2日付けVOT中国語版http://vot.org/cn/西藏青年会选举产生第十五届理事会成员/
写真左手より書記のタシ・ラムサン、会長のテンジン・ジグメ、前会長のツェワン・リクジン、副会長のタムディン・シチュ。
余談で面白いと思ったのは、写真左手の書記タシ・ラムサンはこれまでダラムサラ支部のイケメン書記として知られていたが、今回ダラムサラ支部のボスであった赤鉢巻きで有名なテンジン・ツンドゥは平執行部として選出されただけなのに、支部ではNo.3であった彼が嘗てのボスを差し置き中央執行部のNo.3になったことである。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)