チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年5月30日
カンゼで強制土地収用
先週からカム、カンゼ当局はカンゼ周辺のチベット人が所有する農地等を僅かな補償金と引き換えに有無を言わさず取り上げているという。
現地の人が報告するところによれば、土地の大小に従い4万元前後の補償金が払われ、耕作地の場合はさらに8千元が上乗せされるという。しかし、それらの土地の相場はその約10倍の40~50万元であり、誰もそんなはした金で手放したくないが、逆らう事ができない状態だという。
参照:5月29日付けTibet Times チベット語版 http://www.tibettimes.net/news.php?showfooter=1&id=7724
このところ当局によるチベットの地方中小都市周辺の土地収用が目立ち始めている。いよいよ、チベットにも中国内地の「新市街地開発」の波が本格的に押し寄せ始めたのかと危惧する。チベットの場合はその上、その開発地に内地の漢人が入り込むというおまけもつく。
中国は特に2008年のリーマンショック以来、札を刷りまくることにより経済発展を維持している。その金の半分は不動産投資に向かう。地方政府は軍隊や保安部隊の武力を後ろ盾に、ただ同然で農民や遊牧民の土地を取り上げ、それを開発し不動産業者と共に金を儲ける。これほど簡単なやくざ仕事は他にない。こうして、中国の各地に新市街地が出現する。もっとも、多くの場合は無人の幽霊市街地と化したりする。
中国自体は年々債務超過に陥り、インフレとなり、その内不動産バブルがはじけ没落するであろう。しかし、役人たちは先のことなどどうでもよくて任期中にどれだけ稼げるかしか考えていない。中国のバブルがはじけ没落することはチベットにとって凶とでるか、吉とでるかは分からない。ただ、はっきりしているのはチベットの農牧民をはじめ中国の庶民はどちらにせ苦しむということだ。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)