チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年5月6日
ウーセル・ブログ「私たちのラサがもうすぐ壊されます!ラサを救ってください!」
ラサの旧市街として嘗ての面影を唯一残し、チベット人たちの砦でもあったパルコル周辺が、最近当局による大規模な開発の対象となっている。ウーセルさんは5月5日付けのブログで多くの写真とともに、この歴史的建造物の改築、破壊を犯罪行為だと糾弾し、「ユネスコなどの世界中の関連機関」や「チベット学やチベット問題を研究する全世界の専門家と組織」に対し「ラサ旧市街を救う行動を展開するように」と訴えられている。
原文:http://woeser.middle-way.net/2013/05/blog-post.html
翻訳:@yuntaitaiさん
◎私たちのラサがもうすぐ壊されます!ラサを救ってください!
私たちのラサがもうすぐ壊されます!
これは決して大げさな話ではありません!
ラサに行った旅行者が新浪微博に書いた。「今日、はっきりと分かった。ラサの目標は麗江のような贅沢三昧のやかましい観光都市になることだったんだ。旧市街の全ての露店とか旅館とか、安めのサービスは旧市街から出て行かなくちゃいけない。高級な骨董品屋やホテルと入れ替わるんだ。それに旧市街の建物は全部、外観や看板をそろえないといけない。まさか中国の都市には、ばかげた韓国式の美容法しかないのかね?」
添付された写真の中には、城関区政府だった場所に建てられる「ラサ・バルコル商城」の「プロジェクト概況」があり、1117台収容の地下駐車場を造ると書かれている。昨年末、ラサ旧市街にオープンした官民合同の巨大建造物「神力タイムズ・スクエア」は、地下駐車場を造るために2年以上にわたって地下水を吸い上げ、旧市街で亀裂や陥没、ひどければ巨大な穴ができる危険を招いている(実際、既に数多くの亀裂が見つかっている)。そして今、当局は旧市街の別の場所で再び大型ショッピング・センターと地下駐車場を造ろうとしている……。ラサは餓鬼に破滅へと引き込まれており、もう止められないという意味なのか?
国連教育科学文化機関(ユネスコ)は1994年、ポタラ宮を世界遺産リストに登録し、2000年と2001年には、「ポタラ宮の歴史的遺跡群」としてジョカンとノルブリンカを追加登録した。宗教と歴史、人文的な価値のある聖地を世界文化遺産にし、当然の保護を受けられるようにした。
2007年、ポタラ宮は世界遺産大会で「イエローカード」を受けた。観光収入を過度に追求して自由に開発しながら、(保護の)責任を果たさず、(世界遺産条約の)取り決めを実現させておらず、世界遺産の称号が取り消される可能性もあると批判された。
今、ポタラ宮では行き過ぎた観光開発が続いている。チベットへの観光客は毎年数百万を数え、絶えず増え続けており、足元は危険極まりない(見学者が多すぎて、ポタラ宮がダメージを受けている)。それだけではなく、ラサ旧市街までも観光化の過程で姿を変えられている。腹を引き裂かれるだけではなく、問題を根本的に「解決」されようとしている。ちょうどチベット人芸術家の鄺老五がこう論評するように。「物質と権力の誘惑の前で、文化の独自性は失われつつあるが、都市の共通点は逆に増えている。繁栄しているように見える背後で、とっくに内面を空っぽに吸い取られた旧市街は、既に盛りを過ぎた菊になっている。古めかしく、歳月の痕跡を残した物はもう見つけられない」
何年も前にラサ旧市街の修復に取り組んだドイツ人、アンドレ・アレクサンダーと彼の「チベット・ヘリテージ・ファンド」(THF)を思い出す。彼らは1996年から2002年にかけ、ラサと周辺の76の歴史的な伝統建造物を救い、真相を語った。「1980年から都市建設の過程で、旧市街の古い建物と区画は絶えず破壊に遭っていた」「1993年以降、平均で35の歴史的建造物が毎年取り壊された。このペースでは、残りの歴史的建造物は4年以内にほとんど消え失せるだろう」。アンドレたちの修復作業と証言は際立っていたため、一心に利益を追い求めてきた当局はラサから彼らを追い払った。
アンドレは感傷的に書いた。「訪ねるたびに古い住宅は明らかに減っていく。石一つ、レンガ一つ。路地1本、通り1本。犬までも姿を消していく……」。今では、権力者によって商業化された新しいラサがそれに取って代わろうとしている。あるネット仲間は激しく非難した。「古い建物を取り壊し、地下道を掘り、歩道橋を造り、ラサ河をせき止め、地下水を吸い上げる。。。あいつらは本当に餓鬼の生まれ変わりだよ。持っていけるものは全部持っていき、持っていけないものは全部ぶち壊すんだ!」
ユネスコは約40年前、世界遺産条約が採択された時に考えた。「いずれの国民に属するかを問わず、この無類の遺産は特別の重要性を有しており、人類のかけがえのない財産で、世界の全ての国民にとって重要だ。文化遺産及び自然遺産のいずれかが損壊、または消失することも、世界の全ての国民の遺産の憂うべき貧困化を意味する。従って、人類全体のための世界遺産の一部として、保存する必要がある」
ここに、ユネスコなどの世界中の関連機関に呼びかけます。この恐ろしい「現代化」がラサ旧市街の風景や人文、環境に許しがたく、計り知れない罪を犯すのをどうか止めてください!
ここに、チベット学やチベット問題を研究する全世界の専門家と組織に呼びかけます。ラサ旧市街が直面している万劫不復(永遠に回復できない)の不運に関心を持ってください。
各界の人々がラサ旧市街を救う行動を展開するよう期待します!
私たちのラサがもうすぐ壊されます!
ラサを救ってください!
2013年5月4日
次の写真はネット仲間が撮影した現在のラサ旧市街。
ジョカンを1周する巡礼路、バルコル。
バルコルを右繞するチベット人。
バルコル。
バルコルの建物。
ネット仲間は書いた。「東措(ユースホステル)の正面で大きな取り壊しだ。バルコル商城を建てるって。チベットのアクセサリーを売っていたバルコルの露店は今後、まとめてここに移るらしい」
ラサ旧市街に建てられる「バルコル商城」。
バルコル商城の「プロジェクト概況」には、地下駐車場を造ると書かれている。
少し前、ラサ河がせき止められて干上がった。ラサ旧市街に官民合同の巨大ショッピング・センター「神力タイムズ・スクエア」を造るため、地下水を昼夜吸い上げ、ラサ人を心配させた。旧市街を修復したアンドレ・アレクサンダーに「これは破壊につながるのでは」と私はメールで尋ねた。彼は心を痛めて返事をくれた。「あちこちで水力発電所を建設しているから、水はチベットで大問題になっている。ラサでも環境はもうひどく破壊、汚染された。貪欲な役人に支持され、貪欲な開発商がラサの谷間を大工場へと変えた。もし(市内の)ラル湿地が干上がったら手遅れになる」
ラサ河がせき止められて干上がったため、たくさんのチベット人が自発的にわずかな水の中から魚を助け出した。なんと悲しく、象徴的な意味合いを持つ光景だろうか!
・旧市街の蔵医院(メンツィーカン)路も掘り返されている。文化大革命の時、「四旧」を踏みにじってみせるため、僧院から奪われた無数の仏像がこの道に埋められた。今回の掘り起こしで仏像が発掘されるかどうかは分からない。蔵医院(メンツィーカン)路。
蔵医院(メンツィーカン)路。
ラサの道。
ラサ旧市街。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)