チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2013年4月10日

ウーセル・ブログ:ラサの鉱山事故は「自然災害」なのか?

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先月29日にラサ近郊メルド・グンカル県ギャマ地区の鉱山で大規模な地滑りが起こり当局発表で83人の作業員が生き埋めになった。結局当局の生存者捜索にも関わらず現在までのところ1人も生存者は見つからず、60数人の遺体が発見されたという。最初から生き埋めになった作業員の数が83人というのも事実なのかどうか確かめようもなく、それ以上の遺体が発見される前に作業は打ち止めされたに違いない。

この事故を契機に、世界では「中国によるチベットの鉱山乱開発」や「83人の内2人しかチベット人がいないというのはなぜか?」とか、「本当に自然災害なのか?」とかをテーマにした記事が多く発表されている。チベット亡命政府の環境デスクは4月9日付けでこの事故を取り上げ「本当に自然災害なのか?」というかなり長文の報告書を作成している。結論的には中国側の言う「雪解けによる自然発生的な地滑り説」をまったくの茶番として否定し「これほど短期間に徹底的に山肌を削れば、いつこのような事故が起ってもおかしくない」とする。(その報告書:写真、図解も多く参考になるので、時間のある方は是非お読み下さい:http://tibet.net/wp-content/uploads/2013/04/AR-Gyama-9-April.pdf

ウーセルさんも4月4日付けブログにおいて、「自然災害なのか?」をテーマにコラムを書かれている。いつものように@yuntaitaiさんがこれを日本語に翻訳して下さったので、以下これを紹介する。

原文:http://woeser.middle-way.net/2013/04/blog-post.html

◎ラサの鉱山事故は「自然災害」なのか?

_中国黄金集団の2012年半期報告書。

3142官製メディアが報じたギャマ鉱区第2期建設プロジェクトの起工式。

_12011年に北京民族文化宮で開かれた「チベット和平解放60周年成就展」の展示。

82e_29c38e9c_5626_a39c_6a8e_6ea40fea1fe7_13月29日にギャマ鉱区で起きた鉱山事故。

国務院国有資産監督管理委員会の管轄する中国黄金集団公司は、「チベット・ギャマ銅鉱」という鉱山を開発している。ギャマとはチベットの偉大な君主ソンツェン・ガンポの故郷のことで、ラサ河上流のメルド・グンカル県ギャマ郷にある。中国黄金集団は6年前、ここで長年にわたって採鉱してきた六つの私営鉱山を吸収合併した。傘下の華泰竜鉱業開発有限公司が採鉱を続けており、採掘量は1日1万2000トンに上る。

ギャマ一帯には、銅やモリブデン、鉛、亜鉛、金、銀などを含むさまざまな金属が埋蔵されている。報道によると、潜在的な経済価値は1200億元を超えるという。この国有企業、中国黄金集団公司は2011年8月、2大鉱区の一つのギャマ鉱区で、確認埋蔵量と推定埋蔵量が443%増加したと発表した。そして、大規模な鉱山拡張計画を推し進め、「フォーチュンの世界企業500社番付に進撃し、世界の一流鉱山企業をつくり上げよう」と公言した。同社によると、昨年9月に始まった「ギャマ第2期プロジェクト」は、「操業後には年間6万トン以上の銅と3000トン近いモリブデン、50トン以上の銀、1トンの金を産出できると見込まれる。鉱石の年間処理量は1260万トン、売上は40億元に達する」という。

実際、ギャマ鉱区は早くからギャマ郷周辺の郷へと広がっていた。この拡張の過程で、山に建てられていた小さな僧院の多くが立ち退きを迫られ、僧尼も追い出された。農業や牧畜業をしていた村人は移転を余儀なくされ、村落は鉱区の倉庫に改造された。信仰の伝統や歴史的価値のある周辺の聖跡は破壊された。これらの聖跡には、グル・リンポチェが修行した洞窟やサムイェ僧院への巡礼路、古い鳥葬台、素朴な岩絵、聖山と聖湖、温泉なども含まれる。鉱山開発が水源の汚染をひき起こし、何千もの家畜が死に、地元の人たちは奇病にかかった。人々は何度も政府に抗議したが、当局に全て「分裂活動を起こしている」として処理された。2009年には、干ばつのために村民が鉱区に水を奪われ、両者の間に衝突が起きた。当局は武装警察と防暴警察を村に派遣し、多くの村人が拘束された。村長は刑罰を受けたが、村民を傷つけた鉱区は責任を問われなかった。

ここで何が起きているのか、ほとんどの人は知らない。ラサから国道318号に沿って東に65キロ走ると、「ソンツェン・ガンポの生まれ故郷」と書かれたチベット式の立派な門が道路わきに現れる。左側にはチケット売り場があり、向こう側は景勝地なのだと分かる。駆け足旅行の観光客の目に映るのは、舗装された道路とその左右の真新しくきれいな建物だ。だが実は景勝地は半分以下で、大半は鉱区になっており、入って行くことはできない。また、積荷を満載したトラックが走り抜けるのも目にする。鉱石を積んだ車だと知ったとしても、観光客は官民合同の鉱山開発事業で人々の暮らしが潤っていると思うだろう。3月29日早朝の鉱山事故が起きて、ようやく残酷な真相が明らかになった。

20 PMグーグル・アースの2年前の写真。ギャマ鉱区の洗鉱場など。

官製メディアはまず「自然災害の山崩れ」と明言した。地滑りの長さは3キロ、崩れた土砂の量はおよそ200万立方メートルで、労働者83人が埋まったという。また、現場はタシガン郷シプ村プラン谷の山裾(扎西岗乡斯布村普朗沟泽日山)で、ギャマ鉱区に属するという。グーグル・アースとグーグル・マップでギャマ鉱区を見ると、驚くことに巨大な鉱区は地図1枚に入り切らないほどだ。鉱区のために造られた道路はギャマ郷からまっすぐ山々へと延び、大きくカーブを描いて山の反対側に抜ける。出口はやはり国道318号だ。鉱区は基本的にU字形で、ギャマ郷や隣接するタシガン郷などを手中に収めている。一部の区域には、縦横に走る道路や切り裂かれた山、深々としたくぼみ、大きくまだら状に露出した地面ばかりがあり、完全に山河が破壊された風景が広がる。これらの写真が撮影されたのは2年前だ。もしも今撮ったなら、見渡す限りの荒れ地になっているだろう。

では、どんな「自然災害」が「山崩れ」を起こせるのだろう?官製メディアは事故の2日目、「チベットの鉱区で崩れた山にいくつもの亀裂が見つかったため、2次災害を警戒している」と報じた。「自然災害」から「2次災害」まで、ここにある表向きの理由はとても奥深い。災難の全ては気まぐれな大自然がひき起こしたものであり、人間の行為とは全く無関係と言うのだろうか?

ちょうど、ギャマ鉱区の拡張について知るネット仲間がツイッターに書いた。「あそこで働く友達がいる。事故が起きたのは第2期採掘場らしいけど、ニュースでは第1期採掘場と言っている。『和諧』(検閲)されて『自然災害』になってるし」「第2期の規模は第1期の数倍で、まだ工事中だ。でも今は第2期での事故を第1期のだと言っている。『人為的な原因による山崩れという可能性もあるが、大きくはない』って当局は必ず言うよ」。そしてこう続けた。「何日かネット接続が切れてるってギャマの友達が言ってた。『ここでは情報が封鎖され、外部に情報をもらせない』だって」

確かにネット上では、鉱山事故は天災なのか人災なのかと疑問を投げかける声が多い。だが、中央宣伝部は素早く各メディアに最高レベルの指示を出している。「ラサの鉱区で起きた大規模な山崩れでは、新華社と権威ある部門が出す情報を基準とし、穏当な記事を書き、客観的に正しく災害状況を報道し、救助活動をすかさず十分に伝え、世論を正確に導くこと。関係する敏感な問題については、誇張や推測に基づいて報道しないこと。記者を現場に派遣しないこと」

鉱山を開発していた国有企業から官製メディア、各級の政府職員まで、どうりで口ぶりが一致していたわけだ。一体何を隠そうとしているのか?事故がかなり大きいのか、それとも鉱山開発による破壊や将来の災いが大きいのか?とにかく、元々は神々しく、チベットの龍脈の流れていたギャマという土地が、今では腹を切り裂かれる不運に遭っている。これは隠しようのない事実だ。

2013年4月3日 (RFA特約評論)

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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