チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2013年4月8日

ウーセル・ブログ「軍服を脱いで警官に」

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以下、ウーセルさんが1月9日付けブログで発表されたコラム。

原文:http://woeser.middle-way.net/2013/01/blog-post_9.html
翻訳:@yuntaitaiさん

Img326121127ウーセル解説:写真はネットから。中国官製メディアの報道によると、2011年末でラサには135カ所の便民警務站があり、支給した装備品の総額は6000万元に上るという。ラサ市を含め、チベット自治区には676カ所の警務站がある。

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◎軍服を脱いで警官に

ラサで2012年8、9月、武装警察官と解放軍兵士がチベット自治区の基層政法部門(公安、検察、司法など)の試験を受けた。

退役(義務兵の兵役期間は2年)を控えた軍人から警官を採用するのは2回目のはずだ。チベット自治区の官製メディアは2011年末、「武装警察チベット総隊の退役戦士686人が(中略)自治区の基層政法部隊に採用された。(中略)わが自治区で大量の退役戦士を基層人民警察に採用するのは初めて」と報道していた。ニュースはまた、彼らがチベットで「治安維持」任務に関わっていたと強調した。中国共産党の用語で言えば、つまり政治的に確かということだ。だから待遇も申し分なく、「採用された全員は通常の退職金を受け取り、部隊勤務期間を(基層人民警察の)勤続年数として数える」。そして、「自治区全土の県級公安機関の基層派出所や公安のチェックポスト、ラサ市公安局特殊警察支隊、便民警務站で働く」という。

チベット人事試験ネットが2011年に発表した「駐チベット部隊退役予定兵士と退役兵士から基層公安機関人民警察を採用する公告」からは、その募集枠が2500人に上っていたことが分かる。「今回の計画では2500人(男性2485人、女性15人)を採用する。このうち、退役予定兵士の採用数は1800人、退役兵士の採用数は700人」だったという。対象は「駐チベット人民解放軍、中国人民武装警察部隊(及び公安現役部隊)」だ。応募条件の最初の言葉は、「政治的立場が堅固であること」。そして、「直系の血縁者、または本人に重大な影響のある傍系の血縁者が、国内外でわが国の政権転覆活動に従事」していた場合には応募できないと強調する。中国共産党員か功績を残している者には、試験で得点加算措置がある。

駐チベット解放軍と武装警察から警察官を採用するのは、明らかに「治安維持」の新しい施策だ。筆記試験の問題は高校卒業生が受ける公務員試験の問題とは異なっている。比較的簡単な一方、政治色がより強く、とりわけ「反分裂」というチベット的な特色が際立っているという。基層政法機関の2012年の採用条件では、「党の路線と方針、政策を断固として徹底的に執行し、思想と政治、行動の面で党中央と高度な一致を保ち、分裂への反対、ダライ批判、祖国統一と民族団結の維持・防衛という点で政治的な立場が確固としており、旗幟が鮮明であること」をはっきりと求めている。

内情を知る者によると、チベットで兵役に就く軍人はこの新政策をとても歓迎しているという。彼らの将来にとても有利に働くからだ。元々の戸籍が都市であれ農村であれ、軍人たちに日々迫り来るのは、退役後に帰郷しても安定した仕事を見つけるのは難しいという現実だ。だが、新政策はこの難題をはっきりと解決している。ましてや年限は8年と定められているのだから、兵営から殺到するのは当然だ。もちろん、採用されるのは漢人が多い。

当局にすれば、警察官の採用では、「治安維持」と「洗脳」の訓練を受けた兵営の方がほかの集団よりもはるかに安心できる。単に制服の色が変わるだけの話だ。彼らは「政治的立場が堅固」で、「軍事的資質が確か」だ。「便民」を名目にし、実質的には「治安維持」任務を執行する警務站は、そうした警官を抱えることで網の目のように各地に広がっている。警務站はラサ市だけで135カ所、チベット自治区全体では既に676カ所もある。

最近現れたこうした警務站について、官製メディアは「車と徒歩を組み合わせ、24時間途切れることなくパトロールを展開し、『昼には警官、夜には警告灯が見える』という状態を全力でつくり出し、決して死角を残さないと保証している」と描写する。一方、チベット研究者のCharlene Makleyはチベットの現状について次のように書く(http://woeser.middle-way.net/2012/04/charlene-makley.html)。「私が2008年に観察したように、チベット人の抗議運動に対する軍事的鎮圧は、共産党が異常な状態に入ったことを意味している。特定の敵ではなく、都市や町、地区の全体を封鎖し、包囲する。(中略)以前は半ば隠れていた封鎖と包囲を全てのチベット人にまで広げ、日々続く封鎖と包囲へと拡大したのだ」

2012年9月、ラサにて (初出RFAチベット語版)

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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