チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2013年3月31日

ギャマ鉱山の悲劇は「自然災害」か?

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306004_591714490841050_1884252215_n現場で救出作業中という写真。

新華社によれば、29日早朝、ラサの東、約70キロにあるメルド・グンカル県ギャマ郷(མལ་གྲོ་གུང་དཀར་རྒྱ་མ་ཤང་)にある鉱山で大規模な地滑りが発生し、83人が生き埋めになったという。昨日になり、やっと1人の遺体が発見されたそうだ。83人の内チベット人は2人だけ。女性という情報もある。後は全て漢人出稼ぎ労働者である。痛ましいニュースだ。中国では鉱山、炭坑事故で毎年5000人以上の人が亡くなっている。経済優先、人命軽視の見本である。

チベットにおける鉱山開発は、最近急速に数と規模を増している。嘗ては中国も中央から遠く離れたチベットの鉱山を開発するだけの、技術も資本も移送手段も持ち合わせていなかった。しかし、鉄道がラサまで敷かれた今、事情はすっかり変わった。このギャマ鉱山はラサに近いということもあり、今ではチベット内でもっとも大きな鉱山に成長した。その銅の埋蔵量においては中国でも有数の規模で10年以内に中国でもっとも銅産出量の多い鉱山になるそうだ。銅の他に、モリブデン、金、銀、鉛、亜鉛を産する。

政府系中国黄金集团傘下の鉱山会社がカナダのContinental Minerals社の資本参加も受けて開発中である。中国政府は2012年に、この鉱山を「国家緑色鉱山開発のパイロット計画」と位置づけ、「国家の団結と発展を促進するためのモデル計画」であり、「人民優先」「安全生産」をモットーとする「鉱山と地元コミュニティーの調和、社会福祉の責任を負う計画」であると宣伝している。

mine-landslide-tibet-2013もちろん、中国はいつものように、口先、表面上はこのような立派なことを唱えているが、他の鉱山と同じように、ここでも、元々の住民の意志を無視した乱開発により、これまでにも多くの問題が発生している。地元のチベット人たちは耕作地や草原を勝手に略奪されたと思っている。2009年には川の汚染により、多くの家畜が死に、健康被害が起きていると政府に何度も訴えたが、金を握らされてる役人たちは全く耳を貸さず、最後には暴力的衝突が起こり、これに対し部隊が投入されたことにより3人のチベット人が負傷している。

_7@badiucaoの漫画(ウーセルブログより)

全体の開発面積は145、5平方キロにも及び、その内現在約半分で実際の採掘が行われているという。今回土砂崩れが発生し、埋まってしまった面積は4平方キロという。これだけでも相当大きな規模で一つの谷を埋め尽くすほどの土砂崩れである。しかし、全体からみればまだほんの一部が崩れただけとも言えよう。そこら中の山を崩し、山に穴を開けて掘り出していれば、崩れてもなんの不思議でもない。それをただの「自然災害」と言い切ってしまうのが中国である。もちろん、責任回避のためだ。

実際に生き埋めになってしまった人の数は83人より多い可能性も多いと言われているが、とにかくその内2人しかチベット人が含まれていないということは、地元のチベット人たちは労働力としても雇われる事なく、耕作地と草原を奪われ、公害を受けるだけで、ほぼ何も経済的見返りを享受していないということは確かのようである。チベット人にとっては泥棒行為意外のなにものでもない。

1999年に始まった西部大開発の主な目的は西の資源を東の経済を維持するために活用するというものだ。この政策に従い、チベットの各地で鉱山開発やダム建設が開始された。チベット人たちは先祖代々回りの自然を神々の住まいと認識し、できるだけ自然を破壊しないよう努めて来た。地域ごとに聖山というものがあるが、中国人はそのようなことはまったく意に解さず、聖山であろうがなかろうが、お構いなしに山に穴をあけ、山を崩した。このことが地元のチベット人の怒りをかい、チベット人たちは各地で鉱山開発に抗議し、時にはデモを行った。鉱山開発会社のバックは軍であることが多い。鉱山開発に反対するデモが起れば会社は直ぐに軍を呼び、軍は発砲も辞さず、衝突で銃殺されるというケースも続出している。

56c59cd0石油を含むチベット内鉱山地図。(詳しくはhttp://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51755231.html

この鉱山開発に抗議したと思われる焼身が同じ場所で2件起っている。2012年11月20日、現地時間午前8時半頃、アムド、サンチュ(བསང་ཆུ་རྫོང་甘粛省甘南チベット族自治州夏河県)アムチョク(ཨ་མཆོག་阿什合曲郷)ギャガル草原にあるゴン・ンゴン・ラリ金鉱山開発場の入り口付近でツェリン・ドゥンドゥップ(ཚེ་རིང་དོན་གྲུབ་)、34歳が抗議の焼身を行い、その場で死亡した。彼は3児の父であった。また、一週間後の11月26日には、ほぼ同じ場所でクンチョク・ツェリン、18歳が焼身し同じくその場で死亡している。この金鉱開発は地元の人々が聖山と崇める山をえぐるように進められており、住民の飲み水が汚染されたり、草原が荒れたりという問題が発生しているという。これに対し、地元のチベット人たちはこれまでに何度も地元政府に対し、開発を中止することを求める陳情書を提出したり、抗議デモを行った。しかし、政府はこれを無視し続けていた。

ツェリン・ドゥンドゥップとクンチョク・ツェリンはもちろんチベット全体に関わる中国の圧政に対し抗議するという意図もあったと思われるが、焼身した場所がこの金鉱山の入り口付近であったということで、特にこの金鉱山開発に抗議する目的で焼身したと思われる。

このまま、中国が内地の貪欲な資源需要を満たすために、チベットで乱開発を続けるならば、このような「人的災害」やチベット人との衝突等の悲劇は増えることはあっても決して減ることはないであろう。

参照:31日付けウーセルブログ、ギャマ鉱山の写真が沢山ある:http://woeser.middle-way.net/2013/03/blog-post_31.html
30日付けTibet Net http://tibet.net/2013/03/30/landslide-in-gyama-mine-natural-or-man-made/

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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